震え/ピーター・レナード(ランダムハウス講談社文庫)

本作の作者名にピンと来たあなた、正解です。『震え』は、犯罪小説の大御所として泣く子も黙るエルモア・レナードの息子、ピーター・レナードの作家デビュー作である。二世作家というと、最近ではスティーヴン・キングの長男ジョー・ヒルの鮮烈なデビューが思い出されるところだが、さてレナード家の二世やいかに。
狩猟に出かけた森で、父親が追い立てたオジロジカを弓で仕留めたと思った瞬間、獣を突き抜けた矢は父親の命も奪うことに。誤って父を死に至らせたショックが幼いルークを襲うが、夫を失ったケイトの悲しみも深かった。そんな彼女の前に、昔の恋人ジャックが現れた。かつてふたりは恋仲だったが、ある日ジャックは理由も告げぬまま忽然と姿を消した。何かと世話を焼き、昔のことは水に流してほしいと懇願するジャックを、彼に命を救われた過去もあるケイトは、冷たくあしらうことができない。しかし、実はジャックは刑務所から仮釈放中の身で、さらにはケイトに対するちょっとした企みを隠していた。
レナードの作品について分析を重ね、それを青写真にして他の作家が書いたらこうなるのでは、といった体の仕上がり。父の作品をお手本にする一方で、あまり似るのも困るという作者のジレンマが、行間から窺える。しかし、だからといって面白くないかといえばそういうわけではなく、少なくとも、本作よりつまらない初期のレナード作品を読んだ記憶があるし、新人作家のデビュー作としては上々の出来映えと言っていいだろう。今後、父親エルモアの引力圏をどう離れていくのか、興味津々だ。
[ミステリマガジン2010年1月号]

震え (ランダムハウス講談社 レ) (ランダムハウス講談社文庫)

震え (ランダムハウス講談社 レ) (ランダムハウス講談社文庫)