解錠師/スティーヴ・ハミルトン(ハヤカワ・ミステり)

MWAの最優秀長編賞とCWAのスチール・ダガー賞というダブルクラウンに輝いた『解錠師』の作者は、私立探偵アレックス・マクナイトのシリーズでおなじみスティーヴ・ハミルトンだが、一部同じミシガンを舞台にしているものの、こちらはノン・シリーズ作品だ。主人公は絵と錠前破りに天才的な才能を発揮するマイクル。物語は、彼の獄中の回想から始まる。
八歳の時に巻き込まれた事件のショックで言葉を発することができなくなった彼は、孤独な高校生活を送っていた。あるパーティーの晩、彼のピッキング能力に目をつけた悪がきグループに家宅侵入を手伝わされ、ひとりその罪を被ってしまう。しかしそれがきっかけでひとりの少女と出会い、マイケルは恋心を抱く。なけなしの勇気をふりしぼって、得意の絵で思いを伝えようとする彼の努力は見事実を結ぶが、前途には試練にみちた運命が待ち受けていた。
ある出来事を挟んで前と後の二つの時制が交互に語られていく。敢えてそんな手法をとった理由も理解できるが、やはりケレン味が鼻についてしまう。むしろ時間の流れに忠実に、前半はラブコメ風の青春小説、後半をプロの犯罪者たちのケイパー(襲撃)ものと割り切った方が、素直に楽しめるものになったように思える。とはいえ、作者は十代の多感さとプロの世界の厳しさをしっかりと描いて、長丁場を飽かせずに読ませてくれる。思わず「このくだりはグラフィックノベルで!」とリクエストしたくなる主人公と少女のやりとりの場面は、甘酸っぱい余韻と共にいつまでも心に残る。
[ミステリマガジン2012年3月号]

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

解錠師〔ハヤカワ・ミステリ1854〕 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)