クライム

野獣よ牙を研げ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ジョージ・P・ペレケーノスの作品は、出るたびにほっとさせられる。これだけ面白い作家が、わが国でいまひとつブレイクできない理由は謎だが、あまりいい成績をあげているという話はきかないからだ。今回もとりあえずは「曇りなき正義」から一年八カ月ぶり…

愚か者の誇り/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

いつのまにか、翻訳の四冊目になるジョージ・P・ペレケーノスだが、昨年の『俺たちの日』でようやくチラホラ注目が集まるようになってきたようだ。でもって、今回の『愚か者の誇り』で、その人気も決定的なものになるに違いない。いやー、これはいい。饒舌…

生への帰還/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

書評屋冥利と呼べるものがあるとすれぱ、自分が声高に「傑作ーっ」と叫んだ作家や作品が、読者の支持を広く集めることだろう。そして、最後は年末恒例のベストテン選びに堂々の入賞を果たすことができれば言うことはない。しかし、現実はそうそう上手くばか…

曇りなき正義/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

過剰なまでのドラマチックな展開で、どことなく演歌チックなデニス・レヘインと、インプロヴィゼーションを思わせる軽快なフットワークを駆使して、ミディアム・テンポのジャズを彷彿とさせるジョージ・P・ペレケーノス。いまやこのふたりは、現代ハードボイ…

魂よ眠れ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントンを舞台に「俺たちの日」に始まる〈ワシントン・サーガ〉の四部作でお馴染みのジョージ・P・ペレケーノスの『魂よ眠れ』。この人の大半の作品は、ワシントンという舞台で通底しており、この作品も出版社の分類上は黒人探偵デレク・ストレンジを主…

コーパスへの道/デニル・ルヘイン(ハヤカワ文庫)

私立探偵パトリックとアンジーのシリーズや、映画にもなった『ミスティック・リバー』、最新作の『運命の日』と、長篇小説の作家として語られることの多いデニス・ルヘインだが、『コーパスへの道』では、これまで知られなかった短篇作家というもうひとつの…

拳銃猿/ヴィクター・ギシュラー(ハヤカワ文庫)

書店の店頭で「なんてタイトルなんだ!」と呆れた読者も多いことと思う(かくいうわたしもそう)ヴィクター・ギシュラーの『拳銃猿』である。しかし、内容にしたところが、この能天気というか、おポンチというか、しょうもないタイトル通りなのだから、すごい…

この世界、そして花火/ジム・トンプスン(扶桑社海外文庫)

ペキンパーが監督した「ゲッタウェイ」やウェストレイクが脚本を書いた「グリフターズ」ほど有名じゃないが、ジム・トンプスン原作の映画に「ファイヤーワークス」がある。(一九九六年・アメリカ映画。監督はマイケル・オブロウィッツ)その元となった中篇…

グローバリズム出づる処の殺人者より/アラヴィンド・アディガ(文藝春秋)

アラヴィンド・アディガの「グローバリズム出ずる処の殺人者より」は、ブッカー賞受賞、作者がインドのムンバイ在住、付けも付けたりという邦題と、ミステリ・ファンにはさほど関心のわかない話題ばかりが先行するが、ハイスミスも真っ青の犯罪小説として、…

愚者が出てくる、城寨が見える/ジャン=パトリック・マンシェット(光文社古典文庫)

精神病院を出たばかりのヒロインと、とち狂ったギャングの一団が、くんずほぐれつの追いかけっこを繰り広げる『愚者が出てくる、城寨が見える』は、ジャン=パトリック・マンシェットの代表作と言われる「狼が来る、城へ逃げろ」の新訳版だ。篤志家の企業主…

血と暴力の国/コーマック・マッカーシー(扶桑社海外文庫)

「ザ・ロード」の作者によるミステリへの越境作。全米図書賞に輝く「すべての美しい馬」がわが国でも知られるコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』は、麻薬密売人たちの同士討ちの現場にゆきあたった退役軍人モスが、二百万ドルを越える現金を持ち逃…

最高の銀行強盗のための47ヶ条/トロイ・クック(創元推理文庫)

テキサスの田舎町でくすぶっていた青年マックスが、とびきりの美女サラと出会って恋におちた。しかし、ふたりの間に立ちふさがったのは、それぞれの父親で、一方は保安官、一方は悪漢だった。そう、厄介なことにサラとその父親は、銀行を襲っては町から町へ…

掠奪の群れ/ジェイムズ・カルロス・ブレイク(文春文庫)

『掠奪の群れ』は、『無頼の掟』、『荒ぶる血』と、時代小説やウェスタンのカラーを巧みに織り込んだ犯罪小説が立て続けに紹介され、わが国の読者の胸を熱くさせたジェイムズ・カルロス・ブレイク、二年ぶりの帰還である。著者自らが語っているように、登場…

鎮魂歌は歌わない/ロノ・ウェイウェイオール(文春文庫)

ロノ・ウェイウェイオールという新鋭の『鎮魂歌は歌わない』は、娘を殺された主人公ワイリーが、無頼から足を洗って犯人への復讐を誓うという、シリーズの第一作として、あまりに「らしくない」幕開きにちょっと驚く。しかし、やがて友人や妻たちとのやりと…

ホット・キッド/エルモア・レナード(小学館文庫)

エルモア・レナードは生年が一九二五年だから、『ホット・キッド』は御歳八十才で上梓した作品ということになる。いまだ新作と届けてくれるというだけでも素晴らしいのに、それがかつての作品に負けず劣らずの傑作だというのだから、本当に驚かされる。主人…

北東の大地、逃亡の西/スコット・ウォルヴン(ハヤカワ・ミステリ)

この短編集の作者スコット・ウォルヴンの名をご存知の読者は少ないかもしれないが、オットー・ペンズラーの有名なアンソロジー〈ベスト・アメリカン・ミステリ〉のシリーズでは、常連としてお馴染みの人である。『北東の大地、逃亡の西』は、アメリカのロー…

キューバ・リブレ/エルモア・レナード(小学館文庫)

エルモア・レナードの『キューバ・リブレ』は、十九世紀末のスペイン統治下のキューバが舞台。カウボーイのベンは、ニューオーリンズ生れの前科者だ。旧知の牧童頭の手引きで、内戦状態のキューバで一儲けをしようと、数十頭もの馬を引き連れ、かの国へと海…