ねじれた文字、ねじれた路/トム・フランクリン(ハヤカワ・ミステリ)

トム・フランクリンは、デビューからこのかた長編三冊、短編集一冊という寡作で、唯一の短編集『密猟者たち』のみが翻訳されている。長編としては初紹介の『ねじれた文字、ねじれた路』は、すでにLAタイムズブックプライズの最優秀ミステリ賞を受賞、さらに先ごろ今年度CWA賞の最優秀長編賞のおまけもついた話題作である。
 二十五年前のある晩、ひとりの女子高校生が忽然と姿を消した。すぐさまその日のデートの相手だったひとりの少年に容疑が掛けられるものの、事件は迷宮入りしてしまう。歳月が流れ、成長を遂げた少年は自動車整備の仕事で身を立て、ひとり孤独に暮らしていたが、今度は女子大生の失踪事件が起きる。世間の疑いの目がまたも彼に集まる中、間もなく彼は自宅で瀕死の姿で発見される。犯行を悔やみ銃で自殺を図ったのか、それとも…。少年時代に心を通わせながらも別々の道を歩んだ幼馴染みが治安官として帰郷。事件の調査を開始する。
 米英における輝かしい受賞の実績はあるが、本作はいわゆるミステリではないし、犯罪小説として括られるタイプの作品でもない。行方不明事件や殺人が起きるが、作者の興味は犯罪そのものに向けられているわけではなく、事件に流され、翻弄されていく幾多の人生とその背景にある。肌の色が違ったり、オタクというだけで、数奇な運命へと追いやられていく人々に目を向け、その後ろに広がる風土や社会をまざまざと描いてみせる手法には、フォークナーやカポーティアメリカ南部文学の匂いも漂う。やや甘口のそしりもあろうが、救いと希望を暗示する結末もいい。
[ミステリマガジン2011年12月号]

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

ねじれた文字、ねじれた路 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)