ロンドン・ブールヴァード/ケン・ブルーエン(新潮文庫)

出版社間の作家名表記のブレが、レヘイン=ルヘイン事件(?)をいやでも思い出させるケン・ブルーエン。(著者サイドに確認したという注記があるので、とりあえずは納得だが)『ロンドン・ブールヴァード』は、すでにおなじみの酔いどれ私立ジャック・テイラーものではなく、昨年紹介された『アメリカン・スキン』へと連なるノンシリーズ、犯罪小説路線の作品だ。
喧嘩相手への暴行傷害の罪で服役していた主人公のミッチェル。三年間のおつとめを終えた彼を刑務所前で出迎えたのは、ギャング仲間のビリーだった。旧友の言うがままに借金取り立てを手伝い、雇い主であるロンドン暗黒街の黒幕にも引き合わされるが、裏社会での過ちを再び繰り返したくないミッチェルは、別口の仕事を手に入れる。往年の大女優リリアン・パーマーの屋敷での雑用係だった。カムバックを夢見る彼女の世話を焼く執事ジョーダンからの後押しもあって、彼女の信頼と愛情を手にしていく彼だったが、そんなある日、街中で出会ったひとりの女性が、彼の人生をさらに別の方向へと向かわせることに。
タイトルからも察せられるように、ビリー・ワイルダーの「サンセット大通り」を本歌取りしているが、原典の映画を知らなくても十分に楽しめる。アウトローの出自を引き摺りつつ、真っ当に生きようとする主人公の思うにまかせぬ紆余曲折が、軽快に語られていく。ユーモア漂う語り口の乗りの良さが魅力だが、ノワールの深淵をちらりと覗かせるあたりも上手い。オフビートな味のシリーズが看板の作者だが、本領は本作のような犯罪小説にあるとみた。
[ミステリマガジン2010年1月号]

ロンドン・ブールヴァード (新潮文庫)

ロンドン・ブールヴァード (新潮文庫)