北東の大地、逃亡の西/スコット・ウォルヴン(ハヤカワ・ミステリ)

この短編集の作者スコット・ウォルヴンの名をご存知の読者は少ないかもしれないが、オットー・ペンズラーの有名なアンソロジー〈ベスト・アメリカン・ミステリ〉のシリーズでは、常連としてお馴染みの人である。『北東の大地、逃亡の西』は、アメリカのローカルを舞台に、その風土で生きていくケチな犯罪者や麻薬の売人たちを主人公にした物語が十三篇収められている。ミステリというよりは普通小説に近いが、負け犬の日々を送る彼らの人生の一瞬を、時に鮮やかに切り取って見せる。インパクトがあるエピソードばかりではないが、その鋭さは時に読み手の感情を強く揺さぶる。心の奥底に滲みる好短篇集である。
[本の雑誌2008年1月号]

北東の大地、逃亡の西 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1806)

北東の大地、逃亡の西 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1806)