歌うダイアモンド/ヘレン・マクロイ(晶文社)

晶文社ミステリ>の一冊として刊行されたヘレン・マクロイの『歌うダイアモンド』。のっけから、別れた元夫のブレット・ハリデイの序文が泣かせる、おそらくはマクロイ唯一の短編集*1だが、長いものばかりでなく、短いものもお手のものというマクロイのもうひとつの顔がのぞける。ショート・ストーリーの名手としてのマクロイは、オールド・ファンにはお馴染みのものだろうが、現在その代表作はいずれも古い雑誌やアンソロジーを漁るしかなく、本書が紹介された意味は大きい。奇想天外なミッシングリンクものの表題作をはじめ、エキゾチックな「東洋趣味」、有名な長編の原型「鏡もて見るごとく」、ニューロティックな「カーテンの向こう側」といずれも粒ぞろい。マクロイ再評価の気運に、長編とはまた別方向から光をあてるに違いない。
[本の雑誌2003年4月号]

歌うダイアモンド (晶文社ミステリ)

歌うダイアモンド (晶文社ミステリ)

*1:このあと2003年9月になって、ベイジル・ウィリング博士ものの短篇全作を収録した「The Pleasant Assassin and Other Cases of Dr. Basil Willing」が本国アメリカで刊行されている。