死せる案山子の冒険−聴取者への挑戦(2)/エラリー・クイーン(論創社)

先頃刊行されたクイーンの「Xの悲劇」の新訳版は、訳文のリニューアルが古典のかび臭いイメージを払拭し、新しい読者の目を翻訳ミステリへと向けさせる好企画だったと思う。一方、昔ながらのクイーン・ファンが注目するのはこちら。昨年来、話題になっているラジオドラマ集〈聴取者への挑戦〉だろう。先の「ナポレオンの剃刀の冒険」の好評を受けて、第二集の『死せる案山子の冒険』がめでたく陽の目を見た。
このラジオドラマ集が、クイーン作品の残滓でもなければ、好事家向けに重箱の隅をつついたものでもないことはすでに第一集を手にとられた読者ならご存知だと思う。第一集はパズル重視の国名シリーズ期に軸足を下ろしたセレクトだったが、今回は小説としての深みを増したライツヴィル期がテーマ。しかし冒頭の「〈生き残りクラブ〉の冒険」を読むと、いきなりパズラーとしての面白さに意表をつかれる。さらに作者のアイデンティティーたるダイイング・メッセージものの「死を招くマーチの冒険」、不可能犯罪を扱った「ダイヤを二倍にする男の冒険」など前半の五編は、エラリーとニッキーの軽妙な掛け合いや、クイーン警視やヴェリー刑事部長らおなじみの脇役陣の活躍も賑やかな楽しい作品が並ぶ。
それと好対照なのが、歪んだ人の心のダークサイドを描き出す表題作と「姿を消した少女の冒険」の二編で、「災厄の町」や「十日間の不思議」の頃そのままの人間への洞察力を深めたクイーン作品の読み応えがある。ラジオのシナリオ集ながら、天才作家の粋を集めたコレクションといっていいだろう。
[ミステリマガジン2009年6月号]

死せる案山子の冒険―聴取者への挑戦〈2〉 (論創海外ミステリ)

死せる案山子の冒険―聴取者への挑戦〈2〉 (論創海外ミステリ)