五色の雲/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワ・ミステリ)

ポケミスのお陰で、再びロバート・ファン・ヒューリックの評価が、静かに、しかし確実に高まってきているのが嬉しい。『五色の雲』は、ディー判事ものを八篇収めている。
表題作は、ディー判事が公職につき、初めて赴任した先である東海のほとり、平来(ぽんらい)での出来事を扱っている。会談中に老相談役の警部がディーへ急報をもたらす。聞いてみると、洪家で奥方が首吊りの自殺をしたという。さっそく検死官が呼ばれるが、死体を調べた結果、どうも腑に落ちないところがあるという。奥方の体には妙な打撲傷があり、窒息死なのに首の骨がひとつも外れていないのだ。事件に不審な思いを抱いたディー判事は、やがて意外な事実を探りあてる。
ミステリの世界では、長篇と短篇はまったく技法が異なるもので、それぞれ別の資質が必要とされるが、ヒューリックは類稀なる両刀の才能の持ち主であるようだ。収録短編に捨て駒は一篇としてない。作品ごとに赴任地が異なり、作品集として舞台を転々とする構成となっている。それぞれの赴任地を舞台にした長篇へ思いを馳せるという楽しみ方もあるだろう。そこで提案。どうでしょう、ここで改めて、今読めない長篇もポケミスに収録するというのは*1
[ミステリマガジン2005年4月号]

五色の雲 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

五色の雲 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ)

*1:ご存知のように、この希望はその後かなった。