コーパスへの道/デニル・ルヘイン(ハヤカワ文庫)

私立探偵パトリックとアンジーのシリーズや、映画にもなった『ミスティック・リバー』、最新作の『運命の日』と、長篇小説の作家として語られることの多いデニス・ルヘインだが、『コーパスへの道』では、これまで知られなかった短篇作家というもうひとつの横顔を覗かせてくれる。しかし、これが半端じゃなく素晴らしい。ルヘインの本領は、これら短篇にこそあるのではないか、と思ってしまうほどなのだ。
表題作ほか収録作品はいずれもザラリとした手触りの犯罪小説だが、謎解きやハードボイルドといった定石とは無縁で、人生のワンシーンを切り取ったような印象的なエピソードの中に閃く鮮烈な暴力衝動を描いている。特筆すべきは原型短篇と併録された二幕ものの戯曲で、まるで上質の犯罪映画を観るような心地よい酩酊感を味あわせてくれる。ちなみに、本書は〈現代短篇の名手たち〉と銘打ったシリーズの第一回配本にあたり、続刊としてウェストレイクやランズデールらの作品集も予定されているようだ。
[ジェイ・ノベル2009年8月号]

現代短篇の名手たち1 コーパスへの道 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

現代短篇の名手たち1 コーパスへの道 (ハヤカワ・ミステリ文庫)