ナツメグの味/ジョンコリア(河出書房新社)

「炎のなかの絵」で、元祖〈異色作家短篇集〉でも、その要の存在だったジョン・コリア。生涯にわたり、六十余編のショートストーリーをものし、エドガー賞も受賞したことがあるこの作家の作品は、ミステリファンなら幻想と怪奇、奇妙な味系のアンソロジーなどで、すでにお馴染みだろう。『ナツメグの味』は、そのコリアの短編をわが国独自にまとめられた久々の作品集だ。
表題作は、連続殺人の容疑者だった男を同僚として迎えることになったある職場での物語。同僚たちは新しい仲間と打ち解けるために、男のアパートへ遊びに行く。容疑者として警察の捜査を受けた不快な想い出を、同僚たちに語り聞かせる男。やがて、彼への同情を示す同僚たちに、カクテルが振舞われることになり、男は酒に対する自身のこだわりを熱く語り始めるが…。
二十世紀初頭にロンドンで生まれ、その後アメリカとヨーロッパを転々としたコリアだが、その生涯のさまざまな時期からバランスよく作品をピックアップしているところに本作の特徴がある。やや黴臭いところも含めて、コリアの作品集としては決定版といってもいいだろう。表題作に代表される不思議な余韻に、この作家の持ち味が発揮されているが、バラエティに富んだセレクトも楽しめる。
[ミステリマガジン2008年2月号]

ナツメグの味 (KAWADE MYSTERY)

ナツメグの味 (KAWADE MYSTERY)