この世界、そして花火/ジム・トンプスン(扶桑社海外文庫)

ペキンパーが監督した「ゲッタウェイ」やウェストレイクが脚本を書いた「グリフターズ」ほど有名じゃないが、ジム・トンプスン原作の映画に「ファイヤーワークス」がある。(一九九六年・アメリカ映画。監督はマイケル・オブロウィッツ)その元となった中篇小説を表題作として編纂した作品集が、この『この世界、そして花火』だ。
収録作は七作。肩馴らしともいうべき人物描写のスケッチを繋げた冒頭の「油田の風景」からして、すでにトンプソンらしさがぷんぷん匂ってくる。そして、次の「酒びたりの自画像」で早くもエンジンは全開。作者自身と思しき主人公が、アルコールに溺れながらも、作家としての階段を危ない足取りで昇っていく、いわば自伝的作品である。さらにミステリやホラーというジャンル小説を意識し、職人作家的な一面ものぞかせる「システムの欠陥」「4Cの住人」「永遠にふたりで」を挟んで、未完の作品のイントロ部分と思しき「深夜の薄明」は、決して読むことのできない長編への期待が膨らむ、なんとも罪な代物だ。
しかし本命は掉尾をかざる表題作だろう。やり手の新聞記者が帰郷した田舎町で、久し振りに再会した双子の妹と組み、カモった婦人警官から財産を騙し取ろうと企むお話で、運命の女が血の繋がった妹という設定と、安っぽい犯罪計画が主人公カップルの人生をとち狂った方角へと暴走させる展開は、まさにこの作家の真骨頂。原典のクレイジーな生々しさをしっかりと日本語に置き換える故三川基好氏の訳文も見事だ。
[ミステリマガジン2009年7月号]

この世界、そして花火 (扶桑社ミステリー)

この世界、そして花火 (扶桑社ミステリー)