居心地の悪い部屋/岸本佐知子編(角川書店)

喩えるならば、人の集まるところは苦手なくせに、何かの弾みで出席の返事をしてしまい、気が重いまま顔を出したパーティのようなものだろうか。岸本佐知子編訳の『居心地の悪い部屋』は、そんなアンソロジーである。しかし、気がついてみると、居心地の悪い筈のその部屋に最後の最後まで居残ってしまい、初対面の人々と深夜まで飲み明かしてしまった自分に気づくという次第だ。
パーティの出席者、つまり集められた作家は十一人だが、ブライアン・エヴンソンのみ二作収録されているので、しめて十二作。わたしには、このエヴンソンがとっつき難さの最先鋒で、「ヘベはジャリを殺す」と「父、まばたきもせず」の二編には、目隠し同然で放り込まれるシチュエーションの異様さとその後の展開にオロオロするばかりだった。一方、初めてなのにやけに親しみを感じたのは、ルイス・ロビンソンの「潜水夫」やケン・カルファスの「喜びと哀愁の野球トリビア・クイズ」で、饒舌な語り口と豊穣な物語性に惹きつけられた。書き手の個性ともいうべき負のイメージが全編を覆うアンナ・カヴァンの「あざ」や、思いもかけない方向からとどめの一撃に見舞われるレイ・ヴクサヴィッチの「ささやき」も忘れ難い。
本書の収録作は、故江戸川乱歩の言う「奇妙な味」の末裔たちともいえるだろう。それが現代文学の最先端ともシンクロするところがなんとも刺激的で、興味深い。温故知新を裏返したような読み心地だが、読者を唸らせる品揃えは、編者の選球眼のよさの賜物だろう。
[ミステリマガジン2012年6月号]

居心地の悪い部屋

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