リアル・スティール/リチャード・マシスン(ハヤカワ文庫NV)

アイ・アム・レジェンド」、「運命のボタン」と、依然映画の原作人気も衰えないリチャード・マシスンだが、前々から噂のあった「四角い墓場」もスピルバーグのドリームワークスにより映画化され、日本でも正月映画として公開された。それに合わせて、映画のタイトルに改題された原作短編を中心に新たな作品集『リアル・スティール』が編まれたことは、ファンとしてまこと慶賀に堪えない。
内容的には、共訳者であり編者でもある尾之上浩二氏が先に編んだ『運命のボタン』の続編で、収録作品数は全十作。セールス・ポイントは、そのうち半分が本邦初紹介作という点だろう。既訳作の中では、格闘用のロボットが人間に替わってボクシングのリングにあがる近未来を舞台にした表題作がやはり突出している。新しくて古いマシスン一流のしみじみとしたノスタルジーには改めて感心させられる。他に、すでに定評のある「白絹のドレス」が怪談としてやはり秀逸だし、「世界を創った男」や「おま★★」のユーモアにも腹を抱えてしまう。
一方、初訳作品の中では、アイデア・ストーリーとして切れのいい「最後の仕上げ」が本誌読者向けのお奨め。心電図の折れ線が山脈に見えてくるという意表をつく導入部から、あれよあれよと読者を切ない物語世界へと引き込むクトゥルーものの「心の山脈」も、しみじみとした余韻を残す。
なお、角川文庫で同題、別内容の作品集(本国版「Steel and Other Stories」と同内容か?)もほぼ同時期に刊行されている。
[ミステリマガジン2012年1月号]

リアル・スティール (ハヤカワ文庫NV)

リアル・スティール (ハヤカワ文庫NV)