新・幻想と怪奇/仁賀克雄編(ハヤカワ・ミステリ)

都筑道夫の「ポケミス全解説」をひもとくと、彼の編纂で昭和三十一年に刊行された『幻想と怪奇(1)(2)』の思い入れたっぷりな、編者あとがきを兼ねた編集部M名義の解説も収録されていて、故人がこの分野に対して並々ならぬ情熱を抱いていたことが伺われるが、仁賀克雄編の『新・幻想と怪奇』は、それから半世紀が過ぎ、忘れた頃に届けられたその続編といっていいだろう。
収録作品は十七篇で、唯一中篇に近い長さのレイ・ラッセル「射手座」を除くと、ほとんどが掌編、ショートショートといった小品が並んでいる。気になるクオリティーだが、三段階評価をメモしながらページをめくったところ、アンソニー・バウチャー「ジェリー・マロイの供述」、リチャード・ウィルスン「ひとけのない道路」、リチャード・マシスン「万能人形」など、面白かったといえるAランクの作品が全体の三分の一を越えていて、読んで損のないレベルは余裕でクリアしている。一方、不満としては、作家にしても、題材にしても、やや古めかしいものが多いところだろうか。五十年前に旧編者が言っているように、コワイ話がその後の時代の変遷とともにどう変化してきたかというビジョンを作品構成で見せる工夫があっても良かったと思う。
 ところで、ただひとり二篇を収録し、編者が本作品集の目玉と語るローズマリー・ティンバリーだが、奇妙な味の「マーサの夕食」にしても、ゴーストストーリーの「レイチェルとサイモン」にしても、不思議とあとをひく面白さがある。このイギリスの女性作家の個人短編集も、機会をみてぜひ発掘、紹介していただきたい。
[ミステリマガジン2009年8月号]

新・幻想と怪奇 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ 1824)

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