夜を希う/マイクル・コリータ

マイクル・コナリーやトム・フランクリンらに栄誉を授け、ミステリ文学賞の名門となりつつある〈LAタイムズ最優秀ミステリ賞〉だが、マイクル・コリータの『夜を希う』(創元推理文庫)も同賞のお墨付きをもらっている。ウィスコンシンの氾濫湖地帯へとジープを走らせる作家志望の青年。奇妙な男の乗った銀のレクサスとの追突事故が、思いがけなくも彼に過去との邂逅をもたらす。
デビュー作『さよならを告げた夜』を手にした読者は、この作家を早熟の天才として記憶しているに違いない。しかし、ハードボイルド・ミステリとしての成功に飽き足らず、より高い娯楽性を追求しようと挑んだのが本作だ。冒険小説のスリルとスクリューボール・コメディの楽しさが同居する物語からは、やがて主人公の成長の物語が浮かび上がる。作家としての新境地に挑んだ意欲作である。
[波2011年12月号]

夜を希う (創元推理文庫)

夜を希う (創元推理文庫)