生への帰還/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

書評屋冥利と呼べるものがあるとすれぱ、自分が声高に「傑作ーっ」と叫んだ作家や作品が、読者の支持を広く集めることだろう。そして、最後は年末恒例のベストテン選びに堂々の入賞を果たすことができれば言うことはない。しかし、現実はそうそう上手くばかりはいかない。自信をもってお奨めした本が、まったく話題にならなかったりするのは日常茶飯事で、中には散々貶した作品が、評判をとったり、なんてこともある。
最近の例で、大きく空振りしたのは、ジョージ・P・ペレケーノスである。この作家に心底惚れ込んだわたしは、いつにもまして、大贔屓をしたにもかかわらず、評判はイマイチだった。しかし、ペレケーノスについて言うなら、そんな肩透かしの気分を味わった書評家や評論家はわたしばかりではない筈で、事実、「俺たちの日」は、スカイ・パーフェクTVの<ミステリ・チャンネル>で某評論家が声高に傑作と叫んでいたらしい。
『生への帰還』は、そんなペレケーノスの新作で、「俺たちの日」に始まる<ワシントン・サーガ>四部作の完結編にあたる。三人組の強盗がピザ屋に押し入り、店員を射殺し、逃走中に子供をひき殺してしまう。そして、三年後、事件の被害者の遺族は、週一回集まり、亡き家族の思い出を語り、互いの心の傷を癒していた。しかし、犯人たちが町に舞い戻ってきたというニュースは、息子を殺された男の復讐心に火をつけた。
うーん、やっぱりうまい。前にも言ったやもしれぬが、たとえるならば、タイプは違うけどエルモア・レナードの上手さに通じる。とにかく、人物の造形が見事で、ひとりひとりの心の内側までも透けるような人物描写で迫ってくるのだ。そして、最後には、まるで溜めるだけ溜めたエモーションを、一気に解き放つような痛快さがある。今からでも遅くはない。この<ワシントン・サーガ>に、注目いただきたい。
本の雑誌2000年12月号]

生への帰還 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

生への帰還 (ハヤカワ・ミステリ文庫)