野獣よ牙を研げ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ジョージ・P・ペレケーノスの作品は、出るたびにほっとさせられる。これだけ面白い作家が、わが国でいまひとつブレイクできない理由は謎だが、あまりいい成績をあげているという話はきかないからだ。今回もとりあえずは「曇りなき正義」から一年八カ月ぶりに『野獣よ牙を研げ』が出た。
ただし、新作ではない。「友と別れた冬」などのニック・ステファノスものを発表していた頃のノンシリーズ作品なのだが、しかし旧作とはいえ、そこには拭い去りがたいペレケーノスのしるしが刻まれている。自分の居場所を探して、世界中を渡り歩く若者が、ある老人にたまたまヒッチハイクで拾われたことから、けちな強盗計画に巻き込まれる。
ペレケーノスの小説のいいところは、非常に判りやすく、親しみやすいことだ。ノワールなどの鬱屈した感情とは無縁だし、登場人物もきわめて人間的。友情と暴力をテーマに、シンプルな形で物語が語られていく。本作も、後年のペレケーノス作品と較べると、拍子抜けしてしまうくらいにストレートなクライムノベルの世界が展開されるが、プリミティブであるがゆえに、その美意識はきわめて率直に読者に伝わってくる。
本の雑誌2003年10月号]

野獣よ牙を研げ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

野獣よ牙を研げ (ハヤカワ・ミステリ文庫)