曇りなき正義/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

過剰なまでのドラマチックな展開で、どことなく演歌チックなデニス・レヘインと、インプロヴィゼーションを思わせる軽快なフットワークを駆使して、ミディアム・テンポのジャズを彷彿とさせるジョージ・P・ペレケーノス。いまやこのふたりは、現代ハードボイルドを語るうえで欠かすことの出来ない存在だが、なぜか、わが国では、レヘインばかりが持て囃されている。不思議なことだ。
いやなに、わたしはやや臭みがあっても、レヘインの大げさを大いに愛する読者のひとりなのだけれど、しかし、ペレケーノスの冷遇はどうしても解せない。もしかしたら、わが国でレナードが人気を博するのに、ちょっと時間がかかったのと同様のケースかもしれない。新刊が出るたびに、ブレイクを予感しながら、早や四年半が過ぎてしまった。その間に、すでに品切れになってしまった作品もあるという寂しさだが、しかし処女作「硝煙に消える」から数えて七冊にあたる『曇りなき正義』は、心機一転。前作「生への帰還」で「俺たちの日」に始まった<ワシントン・サーガ>四部作が終了し、それに続く新たなシリーズの開幕を告げる作品である。
そのシリーズで主役を務めるのが、ワシントンで私立探偵を営む黒人のデレクである。同僚に射殺された警察官の母親から、彼の名誉回復のために事件の再捜査を依頼されたデレクは、事件の捜査をすすめるうちに、組織的な麻薬取り引きに行き当たる。死んだ警察官の妹がドラッグの奴隷と成り果てている姿を見たデレクは、彼女の救出を試みるが。いつもよりも浪花節を感じるのは、濃く出ているウェスタン小説の色合いのせいだろうか。しかし、それを差し引いても、登場人物たちが繰り広げるドラマの面白さは、やはりペレケーノスだ。オフビートな展開を織り込みながら、愚直なまでに正義を忘れない姿勢も、一本筋が通っていて立派。今度こそ、売れてほしいものだ。
[本の雑誌2002年2月号]

曇りなき正義 (ハヤカワ・ミステリ文庫)

曇りなき正義 (ハヤカワ・ミステリ文庫)