愚か者の誇り/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

いつのまにか、翻訳の四冊目になるジョージ・P・ペレケーノスだが、昨年の『俺たちの日』でようやくチラホラ注目が集まるようになってきたようだ。でもって、今回の『愚か者の誇り』で、その人気も決定的なものになるに違いない。いやー、これはいい。饒舌な作風で比較すると、例えば最近のエルモア・レナードなんかより、遥かに面白い。
悪漢小説とよぶのが、もっとも妥当なところか。勿論、その中にはきわめて濃いハードボイルドの血が流れてはいるが。主人公は、麻薬の売人とその友人のレコード店の店主である。二人は、麻薬取り引きの現場で、相手が情婦に暴力をふるうのを見て、ついつい彼女と現金二万ドルを奪って逃げてしまう。面目をつぶされた相手方は、殺人狂のコンビを追っ手として差し向ける。
文化、風俗、ロック・ミュージック。舞台となっている七〇年代中頃の空気が充満している。悪人にリアリティがあるという点でレナード、登場人物の人間臭さでウィルフォード、お話の面白さで(ま、あちらほど予測不能ではないが)ロス・トーマスを彷彿させるといえば、眉に唾をつける向きもあろうが、決して大袈裟なたとえではない。愚か者なりのプライドと生き方を、作者は熱気と喧騒の中からくっきりと浮かび上がらせてみせる。今一番の注目株である。
本の雑誌1999年10月]

愚か者の誇り (ハヤカワ・ミステリ文庫)

愚か者の誇り (ハヤカワ・ミステリ文庫)