魂よ眠れ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントンを舞台に「俺たちの日」に始まる〈ワシントン・サーガ〉の四部作でお馴染みのジョージ・P・ペレケーノスの『魂よ眠れ』。この人の大半の作品は、ワシントンという舞台で通底しており、この作品も出版社の分類上は黒人探偵デレク・ストレンジを主人公にしたシリーズに属するが、ワシントンの移り変りを描くペレケーノスの一大サーガの一部として読んで差し支えはない。
今まさに極刑判決が下されようとしている暗黒街のボスを、デレク・ストレンジは面会のために訪問した。デレクは彼にちょっとした負い目があり、そのためにボスを救うための証人捜しを引き受けようというのだ。しかし、その調査の過程で、対立する二つのストリート・ギャングのグループが、ボスの支持をめぐって摩擦を起こし、やがて抗争へと発展する。その中をかいくぐり、デレクは相棒のクインとともに、証人を証言台に立たせようと奔走するが。
主人公にハードボイルドの魂を見出すことは出来るが、これはもう街の変遷のドラマという気がする。悪党たちを描いた犯罪小説という色合いもあるが、やはりテーマはその後にあるもっと大きな何かにフィードバックしていく感じだ。それぞれどこかハンデを負った登場人物たちの造形も精緻だが、それが複雑に絡み、味のあるドラマを生んでいるところがいい。冷たい風が吹きぬけるような一抹の無常観漂う幕切れがなんとも印象的だ。
[本の雑誌2006年9月号]

魂よ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)

魂よ眠れ (ハヤカワ・ミステリ文庫)