ジャマイカの迷宮/ボブ・モリス(講談社文庫)

フロリダの地を舞台にしたミステリには、なぜか心躍る作品が多いが、ボブ・モリスもその書き手のひとり。デビュー作でもあった前作「震える熱帯」でいきなりエドガー賞の新人賞候補になったが、同じシリーズ・キャラクターが再び登場する第二作の『ジャマイカの迷宮』でも、依然その好調を維持しているようだ。
主人公のザック・チェイスティーンは元アメフトのプロ選手で、膝の怪我で現役を退いた過去があった。祖父から継いだ養樹場と船のチャーター業でのんびりと生計をたてていたが、恋人のバーバラとフットボール観戦に出かけたスタジアムで、かつてのチームメート、モンクと再会する。ジャマイカからやってきた顔役の警護にあたっているというこの旧友から、仕事を手伝ってほしいと頼みこまれるザック。顔役を狙ったとおぼしき爆弾騒ぎに巻き込まれるという行きがかりもあって、ちょっといかがわしいレジャー施設《リビドー・リゾート》の警備の仕事のために彼はジャマイカへと飛ぶ。しかしザックの到着を待ち受けていたかのような爆弾事件に巻き込まれ、モンクが犠牲となってしまう。
厳密にいえば今回の舞台はフロリダではなくジャマイカなのだが、南国特有のおおらかな空気と、それを切り裂くようなサスペンスの相性は良好で、読み心地は抜群。私生活のうえでもちょっとした心配事を抱える主人公だが、それと事件が交叉するような形で物語が進行していくあたりも巧いと思う。恋人のバーバラや不思議な力を秘めた相棒のボギーらの脇役ぶりも板についてきており、次作以降の展開にも期待がつのるところだ。
[ミステリマガジン2009年6月号]

ジャマイカの迷宮 (講談社文庫)

ジャマイカの迷宮 (講談社文庫)