【アーカイブス】

割れたひづめ/ヘレン・マクロイ(国書刊行会)

ヘレン・マクロイの『割れたひづめ』が出た。おなじみの精神分析学者のベイジル・ウィリングが登場する作品で、冒頭からなかなか強烈な謎を読者に叩きつけてくれる。その部屋で一夜を過ごしたものは、必ず悪魔に命を奪われる。そんな言い伝えのある屋敷に、…

歌うダイアモンド/ヘレン・マクロイ(晶文社)

<晶文社ミステリ>の一冊として刊行されたヘレン・マクロイの『歌うダイアモンド』。のっけから、別れた元夫のブレット・ハリデイの序文が泣かせる、おそらくはマクロイ唯一の短編集*1だが、長いものばかりでなく、短いものもお手のものというマクロイのも…

弱気な死人/ドナルド・E・ウェストレイク(ヴィレッジブックス)

ドナルド・E・ウェストレイクの『弱気な死人』は、別名義のJ・J・カーマイクルで発表された作品のようだが、この作家のコメディ・センスが炸裂した痛快な作品といっていいだろう。バリーとローラのおしどり夫婦は、ある時金策が尽き、保険金詐欺を企む。妻…

バッド・ニュース/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

ベテラン、ドナルド・E・ウェストレイクの『バッド・ニュース』は、ドートマンダー・シリーズの新作で、あの「ホット・ロック」から数えて十件めとなる泥棒計画の顛末である。といっても、今回ドートマンダーは、なぜ自分はここにいるのか、と首を捻ってば…

最高の悪運/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

現代ミステリのシーンの貴重なアルチザン作家の中でも、最長老格にあたるドナルド・E・ウェストレイクの『最高の悪運』という作品。お馴染みドートマンダー・シリーズの新作である。盗みに入ったつもりが、逆に自分の指輪を盗まれてしまったドートマンダーは…

骨まで盗んで/ドナルド・E・ウェストレイク(ハヤカワ文庫)

その昔、ピーター・イエーツが映画化した「ホット・ロック」が印象に残っているせいか、わたしの頭の中では、いつも主人公役をロバート・レッドフォードが演じているドナルド・E・ウェストレイクのドートマンダー・シリーズ。この泣く子も黙るクライム・コメ…

天から降ってきた泥棒/ドナルド・E・ウェストレイク(ミステリアス・プレス文庫)

ドートマンダー・シリーズといえば、つい何年か前にレンタルヴィデオ屋でクリストファー・ランバートがドートマンダーを演じる「ホワイ・ミー?」を見つけて思わず小躍りした記憶がある。ドナルド・E・ウェストレイクの『天から降ってきた泥棒』は、シリー…

聖なる怪物/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

『聖なる怪物』は、新刊といっても二十年以上も前の作品の発掘なのだが、これがウェストレイクの餞舌な語りの魔術を駆使したなんともユニークな作品なのである。脚光と醜聞に満ちた人生を歩んだ老俳優のもとを訪れるインタビュアー。問わず語りのような人生…

鉤/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

ミステリの分野で剽窃というテーマ自体は、さほど珍しくない。だから、ドナルド・E・ウェストレイクがこのテーマに挑んだと聞いたときは、逆にちょっとした興味がわいてきた。そんなありふれたテーマを、ミステリの酸いも甘いも知るウェストレイクが、どう…

斧/ドナルド・E・ウェストレイク(文春文庫)

ドナルド・E・ウェストレイクの『斧』は、帯のキャプションにもあるように、「シンプル・プラン」や「ポップ1280」と肩を並べるべき犯罪小説であるが、失業した主人公が再就職のライバルを蹴落とすために殺人を重ねていくというアイデアが、現代的であると同…

強盗こそ、われらが宿命/チャック・ホーガン(ヴィレッジブックス)

ペレケーノス祭りの次は、ハメット賞関連でこの作品を。 作者のチャック・ホーガンはアメリカ作家なのに、なぜか『強盗こそ、われらが宿命』からはイギリス映画の香りが漂ってくるから不思議だ。ボストン市の悪名高き犯罪の街チャールズタウンが舞台、主人公…

終わりなき孤独/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントン・サーガに幕をひいたジョージ・P・ペレケーノスは、現在、黒人探偵のデレク・ストレンジ・シリーズに取り組んでいる。二○○二年の新作『終わりなき孤独』は、シリーズ第二作にあたる。 売春婦を支援する組織のメンバーから、デレクのもとに舞い込…

野獣よ牙を研げ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ジョージ・P・ペレケーノスの作品は、出るたびにほっとさせられる。これだけ面白い作家が、わが国でいまひとつブレイクできない理由は謎だが、あまりいい成績をあげているという話はきかないからだ。今回もとりあえずは「曇りなき正義」から一年八カ月ぶり…

愚か者の誇り/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

いつのまにか、翻訳の四冊目になるジョージ・P・ペレケーノスだが、昨年の『俺たちの日』でようやくチラホラ注目が集まるようになってきたようだ。でもって、今回の『愚か者の誇り』で、その人気も決定的なものになるに違いない。いやー、これはいい。饒舌…

生への帰還/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

書評屋冥利と呼べるものがあるとすれぱ、自分が声高に「傑作ーっ」と叫んだ作家や作品が、読者の支持を広く集めることだろう。そして、最後は年末恒例のベストテン選びに堂々の入賞を果たすことができれば言うことはない。しかし、現実はそうそう上手くばか…

曇りなき正義/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

過剰なまでのドラマチックな展開で、どことなく演歌チックなデニス・レヘインと、インプロヴィゼーションを思わせる軽快なフットワークを駆使して、ミディアム・テンポのジャズを彷彿とさせるジョージ・P・ペレケーノス。いまやこのふたりは、現代ハードボイ…

魂よ眠れ/ジョージ・P・ペレケーノス(ハヤカワ文庫)

ワシントンを舞台に「俺たちの日」に始まる〈ワシントン・サーガ〉の四部作でお馴染みのジョージ・P・ペレケーノスの『魂よ眠れ』。この人の大半の作品は、ワシントンという舞台で通底しており、この作品も出版社の分類上は黒人探偵デレク・ストレンジを主…

シャッター・アイランド/デニス・ルヘイン(ハヤカワ文庫)

結末が気になる!と読者に思わせることは、まさにミステリという文学形式の本懐だと思うけれども、誰が始めたのかは知らないが、結末の部分を封じた形で書店に並べるという袋とじの趣向*1は、ミステリ・ファンの稚気をくすぐる上手い商売の方法だと思う。し…

拳銃猿/ヴィクター・ギシュラー(ハヤカワ文庫)

書店の店頭で「なんてタイトルなんだ!」と呆れた読者も多いことと思う(かくいうわたしもそう)ヴィクター・ギシュラーの『拳銃猿』である。しかし、内容にしたところが、この能天気というか、おポンチというか、しょうもないタイトル通りなのだから、すごい…

青チョークの男/フレッド・ヴァルガス(創元推理文庫)

『青チョークの男』は、先に『死者を起こせ』が紹介されたフランス作家のフレッド・ヴァルガスによる新シリーズの幕開き篇。まずは、いかにもフレンチ・ミステリらしいエスプリに溢れたイントロが印象的だ。 新たな都市伝説として、パリっ子を騒がせる事件が…

ロング・グッドバイ/レイモンド・チャンドラー(早川書房)

発売日まで部外者は誰もその原稿に近づけないという厳戒態勢が敷かれた(?)と伝えられる村上春樹訳のレイモンド・チャンドラー。噂が噂を読んだフィリップ・マーロウが自分をどう呼ぶかという所謂一人称問題は、それぞれ読者で確認をしていただくとして、…

血と暴力の国/コーマック・マッカーシー(扶桑社海外文庫)

「ザ・ロード」の作者によるミステリへの越境作。全米図書賞に輝く「すべての美しい馬」がわが国でも知られるコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』は、麻薬密売人たちの同士討ちの現場にゆきあたった退役軍人モスが、二百万ドルを越える現金を持ち逃…