割れたひづめ/ヘレン・マクロイ(国書刊行会)

ヘレン・マクロイの『割れたひづめ』が出た。おなじみの精神分析学者のベイジル・ウィリングが登場する作品で、冒頭からなかなか強烈な謎を読者に叩きつけてくれる。その部屋で一夜を過ごしたものは、必ず悪魔に命を奪われる。そんな言い伝えのある屋敷に、ウィリング夫妻はたどり着いた。吹雪で道に迷った夫妻は、その家の主である作家に宿を乞うが、その晩、不吉な言い伝えが現実のものとなる。その部屋で一夜を過ごすこととなった編集者が、謎の死を遂げたのだ。
雰囲気の盛り上げかたは、さすがマクロイだが、謎とき的には同じウィリング物の「幽霊の2/3」*1と同等かやや落ちる。むしろ、サスペンスものとして楽しんだ方が、印象が鮮明かもしれない。しかし、事件の渦中にある子どもたちの存在や、登場人物たちの描写には、さすがマクロイといいたくなるような精彩があり、楽しめる作品になっている。
[本の雑誌2003年2月号]

割れたひづめ 世界探偵小説全集 44

割れたひづめ 世界探偵小説全集 44

*1:この6年後、新訳で出た同作を読んで、大きく評価を変えた。既訳のマクロイの長篇のベストは、本作と「殺す者と殺される者」、「暗い鏡の中に」の3作だと今は思っている。