血と暴力の国/コーマック・マッカーシー(扶桑社海外文庫)

ザ・ロード」の作者によるミステリへの越境作。全米図書賞に輝く「すべての美しい馬」がわが国でも知られるコーマック・マッカーシーの『血と暴力の国』は、麻薬密売人たちの同士討ちの現場にゆきあたった退役軍人モスが、二百万ドルを越える現金を持ち逃げしたことから、妻との平穏な日々に別れを告げ、何者かに追われる身となる。
モスはベトナムの経験を活かし、逃げ切ろうとするが、彼を執拗に追うシュガーは真性の殺人者で、逃亡を許そうとはしない。実は、この真性の殺人者というのが、この世界における悪を象徴するような存在として描かれており、凄みがある。魂の荒野を往くような乾いた文体と、淡々と語られる逃亡劇が生むリアルな緊張感がすこぶる魅力的だが、ミステリ的な興味を越える物語の帰結は、読者を選ぶかもしれない。
「ノーカントリー」のタイトルでコーエン兄弟が映画化し、アカデミー賞の作品賞にも輝いた。
本の雑誌2007年11月号]

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)

血と暴力の国 (扶桑社ミステリー)