青チョークの男/フレッド・ヴァルガス(創元推理文庫)

『青チョークの男』は、先に『死者を起こせ』が紹介されたフランス作家のフレッド・ヴァルガスによる新シリーズの幕開き篇。まずは、いかにもフレンチ・ミステリらしいエスプリに溢れたイントロが印象的だ。
新たな都市伝説として、パリっ子を騒がせる事件が夜毎に起きていた。パリの歩道上に出現する青いチョークで描かれた円の中には、ロウソクやクリップ、人形の首などのガラクタが置かれていた。それを単なるジョークととらず、犯罪の前触れと警戒する男がいた。パリ第五区警察署長のジャン=バチスト・アダムスベルグその人である。
やがて、アダムスベルグの危惧は、現実のものとなる。ある朝、青い輪の中で見つかったのは、喉を切られた女性の死体だったのだ。ややエキセントリックなところのある海洋生物学者のマチルドからの情報を手がかりに捜査を始めた警察署長だったが、遅々として犯人捜しは進まない。そんな中、第二の事件で、新たな死体が発見される。
最初に書いたが、なんとも掴みが巧みな作品である。マチルドが盲人の青年と出会う印象的な冒頭のエピソードとあいまって、思わず作品に引き込まれてしまう。中盤からの二転三転するプロットも見事で、謎解きミステリとしては余裕で合格点に達しているといっていいだろう。また、登場人物の造形の上手さも特筆もので、個性派の主人公が際立った印象がないのは、脇役たちのひとりひとりが魅力的に描かれているせいだと思う。レギュラー陣との再会がなんとも楽しみな新シリーズの登場である。
[ミステリマガジン2006年7月号]

青チョークの男 (創元推理文庫)

青チョークの男 (創元推理文庫)