〈映画〉

ミッション:8ミニッツ/ダンカン・ジョーンズ監督(2011・米)

SF映画だとは判っていても、「このラスト、映画通ほどダマされる」というあざといコピーを見せられては素通りできないダンカン・ジョーンズの『ミッション:8ミニッツ』。デヴィッド・ボウイの息子という重圧を跳ね返して成功を収めた『月に囚われた男』に続…

ウィンターズ・ボーン/デブラ・グラニック監督(米・2010)

デブラ・グラニック監督の『ウィンターズ・ボーン』から、多くの人が思い出すのはやはり女性監督の手になる『フローズン・リバー』(2008)だろう。インディペンデント系の映画祭としてはおそらくは世界最大級のサンダンス映画祭でグランプリに輝いたと…

2011年のミステリ映画悪魔の一ダース

毎年元旦に届けられる日本推理作家協会報に書いた昨年のミステリ映画ベストテンはこれ。3作もはみ出してますが…。原稿書いた時点で観てたらきっと入れた『サラの鍵』と、見逃して気になっている『レイン・オブ・アサシン』が心残り。 ゴーストライター ファ…

スリーデイズ/ポール・ハギス監督(2010・米)

ハリウッドのリメイク依存症には毎度辟易させられるけれど、先の『モールス』(もとは『ぼくのエリ 200歳の少女』)と同様、いやそれ以上に目を瞠る再映画化となったのが、ポール・ハギス監督の『スリーデイズ』だ。オリジナルはフレッド・カヴァイエの『…

ハンナ/ジョー・ライト監督(2011・米)

スウェーデン発のバンパイア映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(2008)をリメイクした『モールス』(2010)は、この夏に日本でも公開され大ヒットしたが、ミステリアスな少女を演じた弱冠十四歳のクロエ・グレース・モレッツの人気がその追い風とな…

ミケランジェロの暗号/ウォルフガング・ムルンベルガー監督(2010・墺)

ナチスやホロコーストを描く映画がどこか一様なのは、人類の背負うその歴史の重さからくるものだと思うが、ややもするとその息苦しさから逃れたくなる時がある。そんな観客にとって、やられる一方じゃないユダヤ人やパルチザンらを描いたタランティーノの『…

この愛のために撃て/フレッド・カヴァイエ監督(2010・仏)

アカデミー賞監督のポール・ハギスがラッセル・クロウの主演で撮った、冤罪で投獄された妻を夫が脱獄させるという『スリーデイズ』(2010)は、フランスの新鋭フレッド・カヴァイエのデビュー作『すべて彼女のために』(2008)のリメイクだが、その…

ドライブ・アングリー3D/パトリック・ルシエ監督(2010・米)

人生初の3D映画体験は、忘れもしない三十八年前の夏、新宿東急で観た『悪魔のはらわた』だ。映画観の入り口で渡されたプラスチック製の眼鏡をかけ、次々鼻先につきつけられる血まみれの首切り挟みや生々しい臓物に首をすくめた記憶がある。キャンプユーモ…

アリス・クリードの失踪/J・ブレイクソン監督(2009・英)

イギリス出身の先達、クリストファー・ノーランやダニー・ボイルの才能に例えられてのデビューを果たしたのが、イングランドから登場したJ・ブレイクソンだ。英国産洞窟ホラーの続編『ディセント2』の共同脚本などで知られる人だが、自らのオリジナル脚本…

アウェイク/ジョビー・ハロルド監督(2007・米)

先の『キラー・インサイド・ミー』にも娼婦役で出演していたジェシカ・アルバが、今度は心臓疾患を抱える若き青年実業家ヘイデン・クリステンセンの秘書であり恋人の役を演じる『アウェイク』。結婚を望む若いカップルの間には、互いの身分違いを理由に反対…

ファースター 怒りの銃弾/ジョージ・ティルマン・Jr監督(2010・米)

開巻一番、三人の主要な登場人物たちが、ただドライバー、刑事、殺し屋とだけ観客に紹介される。ドライバーことドウェイン・ジョンソンは、十年という刑期をつとめて出所したばかり。刑事ことビリー・ボブ・ソーントンは定年目前のベテラン捜査官。そして殺…

ブラック・スワン/ダーレン・アロノフスキー監督(2010・米)

『グリフターズ/詐欺師たち』のアネット・ベニング、『デッド・カーム/戦慄の航海』のニコール・キッドマン、『シャッター アイランド』のミシェル・ウィリアムズといった過去にミステリ映画でいい仕事をした女優たちがずらりと顔を揃えた本年アカデミー賞…

アンノウン/ジャウム・コレット=セラ監督(2011・米独)

計画停電による映画館の休館や公開予定の延期、中止が相次ぐなど、3・11の大震災は映画の世界にも大きな影響を及ぼしたが、この作品もそのあおりを受けたひとつ。幸いにしてお蔵入りは免れたものの、邦題として当初予定されていた『身元不明』を原題どおり…

ラスト・ターゲット/アントン・コービン監督(2010・米)

原作とその映画化が似て非なるものなのは当然だが、マーティン・ブースの『暗闇の蝶』(『影なき紳士』のタイトルでも旧訳あり)を映画化したアントン・コービン監督の『ラスト・ターゲット』は、原作のエッセンスを抜き出し、それを鮮やかに再構築してみせ…

ゴーストライター/ロマン・ポランスキー監督(2010・仏独英)

ロマン・ポランスキーといえば、アイラ・レヴィンの『ローズマリーの赤ちゃん』やローラン・トポールの『幻の下宿人』の映画化などで、かつてはミステリの世界とも縁浅からぬ映画監督のひとりだったが、久しぶりにそんな古い話を思いださせてくれる話題が、…

刑事ベラミー/クロード・シャブロル監督(2009・仏)

『刑事ベラミー』は、2010年9月に惜しまれて世を去ったクロード・シャブロル監督の遺作にあたる。妻のマリー・ビュネルに引っぱられるように、彼女の実家である夏の南フランスをバカンスで訪れた刑事のジェラール・ドパルデュー。そこに、忽然と謎の男…

引き裂かれた女/クロード・シャブロル監督(2007・仏)

特集上映や研究書の翻訳出版など、クロード・シャブロルをめぐり改めての評価が進められているようだ。先の東京国際映画祭で上映された遺作の『刑事ベラミー』を取り上げたときにも触れたが、かつてヌーベルバーグの旗手と謳われたこの巨匠にはヒッチコック…

わたしを離さないで/マーク・ロマネク監督(2010・英米)

五年前に翻訳紹介された原作は、純文学系の作品でありながら、その年の〈このミス〉でベストテンにも滑り込んだ日系のイギリス作家カズオ・イシグロの『わたしを離さないで』である。それを、デ・パルマの下についたこともあるというMTV世代の監督マーク…

キラー・インサイド・ミー/マイケル・ウィンターボトム(米瑞英加・2011)

メガホンをとっているのは、イギリス出身の監督マイケル・ウィンターボトム。町の保安官助手をつとめる主人公のケイシー・アフレックは、上司である保安官のおぼえもよく、長年付き合っている恋人ケイト・ハドソンと愛し合っている。しかし、あるとき市民か…

アンチクライスト/ラース・フォン・トリアー監督(2009・独仏丁、他)

痛いというと、痛々しいの意味で使われていることが多い昨今だが、『アンチクライスト』はまさに肉体的な苦痛に満ちた?痛い?映画だ。雪の晩に起きた悲劇で物語の幕はあがる。ウィレム・デフォーとシャルロット・ゲンズブールの夫婦は、ある晩情欲にかられて…

MAD探偵 七人の容疑者/ジョニー・トー&ワー・カーファイ監督(2007・香)

一昨年の東京国際映画祭で上映され、ひと握り好事家の間では評判だったジョニー・トーがワイ・カーファイと組んで合同監督した『MAD探偵 7人の容疑者』が、やっと一般公開された。過激ともいえるプロファイリング捜査で周囲を唖然とさせながらも、難事件…

ブローン・アパート/シャロン・マグアイア監督(2008・英)

『ブローン・アパート』は、ロンドンのイーストエンドで夫やひとり息子と暮らす三人家族の妻役を、『シャッター アイランド』にも出ていたミシェル・ウィリアムズが演じる。彼女の夫は、警察で爆発物の処理の仕事をしているが、相次ぐ事件の緊張感からか心を…

RED(レッド)/ロベルト・シュランケ監督(2010・米)

「アイアンマン」とその続編、「ウォッチメン」、「キック・アス」等々、グラフィック・ノベルの映画化はまさに百花繚乱の賑やかさで、アメコミ門外漢の目から見ても、その相性の良さには、どこか格別のものがあるように思える。グラフィック・ノベルって何…

完全なる報復/F・ゲイリー・グレイ監督(2009・米)

司法取引の是非をめぐっては、日本でもさまざまな議論があるようだが、F・ゲイリー・グレイ監督の『完全なる報復』は、この罪と罰をめぐる取引の問題点に鋭く迫った作品だ。ジェラルド・バトラーは二人組の強盗に襲われ、妻と幼い娘を殺される。まもなく犯…

ザ・エッグ〜ロマノフの秘宝を追え〜/ミミ・レダー監督(米独・2009)

製作国のお膝元アメリカなどでは劇場公開されなかったと聞くミミ・レダー監督の『ザ・エッグ〜ロマノフの秘宝を追え〜』だが、実はなかなかの拾い物だ。伝説の大泥棒であるモーガン・フリーマンは、引退前の大仕事としてロマノフ王朝の秘宝に狙いを定め、そ…

フローズン・リバー/コートニー・ハント監督(2008・米)

サンダンス映画祭でグランプリに輝き、タランティーノ絶賛という折り紙が付いた新鋭コートニー・ハント監督の『フローズン・リバー』は、カナダと国境を接するニューヨーク北部の田舎町を舞台に、貧困にあえぎ、子どもを育てる金ほしさから主婦のメリッサ・…

白いリボン/ミヒャエル・ハネケ監督(2009・墺仏伊独)

去年ヨーロッパ映画賞で話題をさらい、4部門で受賞は果たしたのが、ドイツの鬼才ミヒャエル・ハネケの『白いリボン』だが、独特のアクの強さでは右に出るもののないハネケのこの話題作が、わが国でもやっと劇場公開の運びになったのは、実に喜ばしい。その…

ナイト&デイ/ジェームズ・マンゴールド監督(2010・米)

いかにも大味なハリウッド映画という佇まいで、何から何までデートムービー風であるがゆえに、『ナイト&デイ』をミステリ映画好きの鑑賞にも堪えうる映画だと言っても、信じてもらえないかもしれない。しかし、監督のジェームズ・マンゴールドは、怪作(し…

ミックマック/ジャン=ピエール・ジュネ監督(2009・仏)

主人公がハワード・ホークスの『三つ数えろ』(ご存知、原作はチャンドラーの『大いなる眠り』)の台詞を丸々暗記している映画。そんなものを作るくらいだから、ジャン=ピエール・ジュネ監督は、相当のミステリ通なのではなかろうか。そういえば、前作はセ…

シルビアのいる街で/ホセ・ルイス・ゲリン(2007・西仏合作)

スペインの監督ホセ・ルイス・ゲリンの『シルビアのいる街で』もミステリ映画という物差しではかるなら、やはり厳しいものがあるといわざるをえないだろう。画家志望の青年グザヴィエ・ラフィットが、6年前に一度会った役者志望の女性を探し回るだけの物語…