ファースター 怒りの銃弾/ジョージ・ティルマン・Jr監督(2010・米)

開巻一番、三人の主要な登場人物たちが、ただドライバー、刑事、殺し屋とだけ観客に紹介される。ドライバーことドウェイン・ジョンソンは、十年という刑期をつとめて出所したばかり。刑事ことビリー・ボブ・ソーントンは定年目前のベテラン捜査官。そして殺し屋ことオリヴァー・ジャクソン=コーエンは謎の人物だ。最初はまったく繋がりの見えない男たちだが、やがて次々とターゲットに迫っては命を奪っていくドライバーの行動と並行して、十年前におきたある銀行襲撃事件の顛末が明らかにされていく。
ソウル・フード』のジョージ・ティルマン・Jr監督による『ファースター 怒りの銃弾』は、最愛の兄を殺された男の命を賭けた復讐劇である。しかし、その道すじは必ずしも一直線ではない。ひとり、またひとりと兄の仇を倒していくドライバーの巡礼の旅は、やがて警察の察知するところとなり、美貌の女捜査官カーラ・グギーノとのコンビで犯人捜しに乗り出してくる刑事と、何者かに雇われ、銃の照準をドライバーに合わせた殺し屋の三つ巴となっていく。あくまで基調は復讐のドラマの非情さだが、差し挟まれる登場人物それぞれのサイドストーリーがどれも印象的で、その緊張感と温かさが心地よい興奮と感動を生んでいる。最後まで観客を欺きつづける巧妙に練られた脚本は、『完全犯罪クラブ』のトニー・ゲイトンの手になるもの。
日本推理作家協会報2011年7月号]
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