〈映画〉

フェアウェル さらば,哀しみのスパイ/クリスチャン・カリオン監督(2009・仏)

不勉強なことに、旧ソ連をペレストロイカ、さらには冷戦終結のマルタ会談へと向わせる大きなきかっけとなった事件のことを、この映画を観るまでわたしは知らなかった。フランス映画の『フェアウェル さらば,哀しみのスパイ』である。八十年代前半のブレジネ…

インセプション/クリストファー・ノーラン監督(2010・米)

断片的に伝わってくる事前情報からは、その内容がまったくといっていいほど想像のつかなかったクリストファー・ノーラン監督の新作『インセプション』は、ミステリでいう 一種のケイパー(強奪)物だが、非常に風変わりな設定がなされている。天才的な産業スパ…

シークレット/ユン・ジェグ監督(2010・韓)

昨年のミステリ映画で、とりわけ強い印象を残した韓国映画の『セブンデイズ』については以前も書いているが、そのオリジナル脚本を担当したユン・ジェグが初めて監督した作品が『シークレット』である。主人公のチャ・スンウォンは、酔っ払い運転で事故を起…

瞳の奥の秘密/ファン・ホセ・カンパネラ監督(西亜合作・2009)

2009年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞という鳴り物入りで登場したスペインとアルゼンチンの合作映画『瞳の奥の記憶』の監督は、ブエノスアイレス生まれのファン・ホセ・カンパネラである。カンパネラは、アメリカでテレビの連ドラを多数手がけて…

ソルト/フィリップ・ノイス監督(米・2010)

アンジェリーナ・ジョリーというと『トゥームレイダー』のララ・クロフト役を思い出す人も多いと思うが、そのスーパー・ヒロイン像のイメージそのままの彼女が再び登場するのが『ソルト』だ。アンジーの役どころは、CIAの女エージェント、イヴリン・ソル…

殺人犯/ロイ・チョウ監督(2009・香)

フーダニットをめぐって、久々に驚かされたのが、香港から登場したロイ・チョウ監督のデビュー作『殺人犯』だ。電気ドリルで被害者をめった刺しにする連続殺人犯を追う香港警察特捜班の刑事チェン・クアンタイが、犯人の手にかかって高層住宅の中庭に転落し…

ザ・ロード/ジョン・ヒルコート監督(2009・米)

映画の完成が遅れ気味で、伝わってくる情報といえば、ホラー映画サイト経由の殺伐とした画像ばかり。さらに、唯一の監督映画がバイオレンス・ウェスタン(「プロポジション-血の誓約-」)らしいことなど、完成前は不安がつのったけれど、アメリカ本国での評…

冷たい雨に撃て、約束の銃弾を/ジョニー・トー監督(2009・香)

この人まで出演させてしまったのにはちょっと驚きました、フランスの国民的俳優(&歌手)ジョニー・アリディ。ヨーロッパでも評価の高いジョニー・トーならではの豪腕ぶりといっていいだろう。娘役のシルヴィー・テステューの起用ともども、喝采のキャステ…

ウディ・アレンの夢と犯罪/ウディ・アレン監督(2007・英)

スペインを舞台にした『それでも恋するバルセロナ』と日本公開の順序が逆になったが、『ウディ・アレンの夢と犯罪』は、『マッチポイント』に始まるロンドン三部作の掉尾を飾る作品。前作『タロットカード殺人事件』がミステリ映画として秀でていたこともあ…

息もできない/ヤン・イクチュン監督(2009/韓)

アジアン・ムービーのショーケースともいうべき東京フィルメックスで、去年の最優秀作品賞に輝いたのが、この『息もできない』だ。俳優のヤン・イクチュンは、思い立ってこの脚本を3か月で書き上げたというが、さらに自らの監督、主演により本作を作り上げ…

シャッター アイランド/マーティン・スコセッシ監督(2010・米)

返金保証こそ付いていなかったが、原作は初紹介の折、結末部分を袋綴じで刊行されたことで話題になったデニス・ルヘイン作の映画化『シャッター アイランド』。ボストンの沖合いに浮かぶ小さな島には、犯罪者たちを収容する精神病院があった。連邦保安官のレ…

シャーロック・ホームズ/ガイ・リッチー監督(2009/米)

おそらくは、ミステリ・ファンの誰もが「イメージが違う」と感じたに違いないロバート・ダウニー・Jrとジュード・ロウが演じるホームズ・ワトスンのコンビ。しかし、そんな下馬評をよそに、映画『シャーロック・ホームズ』はなかなかの出来映えだったと思う…

サベイランス/ジェニファー・リンチ監督(2008・加)

さまざまな風評を呼んだ「ボクシング・ヘレナ」から十五年、ジェニファー・リンチの監督復帰作は『サベイランス』というサイコスリラーだ。サンタ・フェの田舎町で起きた無差別殺人は、カップル、休暇に向う親子、警察官ら五人が犠牲になり、FBIが捜査に乗り…

パーフェクト・ゲッタウェイ/デヴィッド・トゥーヒー監督(2009・米)

「容疑者6人、犯人2人」という煽りのコピーがTVスポットでも流れた『パーフェクト・ゲッタウェイ』は、先月の「フォース・カインド」に続いてミラ・ジョヴォヴィッチが主演している。新婚カップルを殺害し、指名手配となったふたりの殺人犯のニュースが流れ…

THE 4TH KIND フォース・カインド/オラトゥンデ・オスンサンミ監督(2009・米)

タイトルもそのものずばり、エイリアン・アブダクション(異星人による誘拐行為)を描く『THE 4TH KIND フォース・カインド』は、ナイジェリア人の血をひくオラトゥンデ・オスンサンミ監督のおそらくは初メガホン作品。不眠症患者や行方不明者多数、FBIの出…

カティンの森/アンジェイ・ワイダ(2007・波)

今年の年明け早々、アンジェイ・ワイダがまだ生きていたことに感心してしまった罰当たりな映画ファンのわたし。しかし、昨年末に日本の観客のもとに届けられた『カティンの森』は、今から三年前の御歳八十で撮った作品とのことだが、ちっとも年齢を感じさせ…

ロフト./エリク・ヴァン・ローイ監督(2008・白)

ベルギーでロングランを記録したというエリク・ヴァン・ローイ監督の「ロフト.」は、ロフト仕様のマンションの一室で、手錠でベッドに繋がれた血まみれの女性が死体となって発見されるのが物語の発端。どうやら犯人は、情事に利用するため部屋を共有する建…

イングロリアス・バスターズ/クエンティン・タランティーノ監督(2009・米)

七十年代イタリア産マカロニ戦争映画(「地獄のバスターズ」)のリメイクとも伝えられたクエンティン・タランティーノの新作『イングロリアス・バスターズ』だが、当然のことながら話はそんな単純じゃない。原典映画との関係は、せいぜいリスペクトどまり。第…

スペル/サム・ライミ監督(2009・米)

そのサム・ライミも、スパイダーマンのシリーズなどを手がけ、いまや売れっ子監督の仲間入りを果たしているが、久々にホラー映画に里帰りしたことで話題となった『スペル』は、銀行に勤めるヒロインの受難の物語だ。融資担当のアリソン・ローマンは、ローン…

母なる証明/ポン・ジュノ監督(2009・韓)

「殺人の追憶」で、映画ファンだけでなくミステリ・ファンをも唸らせたポン・ジュノ監督の最新作。いや、厳密にいえば、「殺人の追憶」は、ミステリ映画とも違うのだが、エンドマーク近くの足元をすくわれる感じは、やはりいいミステリのカタルシスにも通じるも…

狼の死刑宣告ジェームズ・ワン監督(2007・米)

作家のブライアン・ガーフィールドと映画の縁は浅からぬものがあって、エドガー賞に輝いた「ホップスコッチ」の映画化をはじめとして、チャールズ・ブロンソン主演で映画化された「狼よさらば」(スタローンによるリメイクの噂あり)、さらにはウェストレイクと…

3時10分、決断のとき/ジェームズ・マンゴールド監督(2007・米)

重度の西部劇音痴なのに、『3時10分、決断のとき』の公開に小躍りしたのは、原作がエルモア・レナードの短篇だからだ。(〈ミステリマガジン〉1988年7月号に訳載)舞台は開拓時代のアリゾナ州。妻とふたりの息子を養い、借金を抱えて汲々とした生活を…

セントアンナの奇跡/スパイク・リー監督(2008・米)

同じ二次大戦下のイタリア戦線でナチスドイツによって引き起こされた大虐殺の史実に材をとったというスパイク・リーの『セントアンナの奇跡』は、冒頭になんとも魅力的な謎が提示される。一九八三年のニューヨーク、順風満帆の生活を送っていた初老の郵便局…

セブンデイズ/ウォン・シニョン監督(2007・韓)

「シュリ」での好演をきっかけにハリウッドへ進出、まるでサクセスストーリーを絵に描いたような成功を収めている女優のキム・ユンジンだが、レギュラーであるTVシリーズ「LOST」の第四シーズンと第五シーズンの合間に一時帰国して主演したのがウォン・シニ…

人生に乾杯!/ガーボル・ロホニ監督(2007・洪)

この作品を取り上げたのはこじつけに非ず。ハンガリーからやってきたガーボル・ロホニ監督の『人生に乾杯!』は、立派なミステリ映画である。五十年間連れ添ったエミル・ケレシュとその妻テリ・フェルディだが、何かと物入りの昨今、収入が年金だけとあって…

バーン・アフター・リーディング/ジョエル&イーサン・コーエン監督(2008・米)

アカデミー賞に輝いたヘビーな「ノーカントリー」の次作ということもあって、犯罪コメディをお手軽に撮ったようにも見える『バーン・アフター・リーディング』だが、そこはジョエルとイーサンのコーエン兄弟のこと、一筋縄ではいかない。衛星からの画像を使…

ダイアナの選択/ヴァディム・パールマン監督(2008・米)

人生の究極の選択をテーマにした作品といえば、個人的にはアラン・J・パクラの『ソフィーの選択』が思い浮かぶが、『ダイアナの選択』でヒロインのエヴァン・レイチェル・ウッド(役名ダイアナ)が迫られる選択も、それに負けず劣らず厳しいものだ。コロン…

チェイサー/ナ・ホンジン監督(2009・韓)

ナ・ホンジン監督の『チェイサー』は、いち早く試写を観た評論家やブロガーは絶賛だったし、カンヌやゆうばりファンタで評判をとった実績もあって、期待するなという方が難しい状況の中で初日に観たのだけれども、期待値の高さも災いしたか、がっかりさせら…

ウォッチメン/ザック・スナイダー監督(2009・米)

「300〈スリーハンドレッド〉」で、オタクチックながらも独自の映像世界を構築してみせたザック・スナイダー監督の新作『ウォッチメン』は、ベトナム戦争にアメリカが勝利し、その後もニクソンが大統領の座を守り続けているパラレルワールドのお話だ。この…

パッセンジャーズ/ロドリゴ・ガルシア監督(2008・米)

「ブロークバック・マウンテン」と「プラダを着た悪魔」で注目を集めるアン・ハサウェイ主演が売りの『パッセンジャーズ』。旅客機の墜落事故で奇跡的に生き残った五人の乗客を相手に、精神的なケアを担当することになったセラピストのアン・ハサウェイ。し…