ナイト&デイ/ジェームズ・マンゴールド監督(2010・米)

いかにも大味なハリウッド映画という佇まいで、何から何までデートムービー風であるがゆえに、『ナイト&デイ』をミステリ映画好きの鑑賞にも堪えうる映画だと言っても、信じてもらえないかもしれない。しかし、監督のジェームズ・マンゴールドは、怪作(しかし傑作!)の『“アイデンティティー”』や優れたリメイクの『3時10分、決断のとき』を撮った人だといえば、少しは興味を持ってもらえるだろうか。キャメロン・ディアスは、結婚する妹に亡き父が大事にしていたGTOを整備してプレゼントしようと、そのパーツを手に入れるために訪れたカンザスの空港でトム・クルーズと出会い、恋心を抱く。しかし彼はCIAから追われる身で、乗り合わせた旅客機は不時着、帰り着いたボストンでは派手な銃撃戦とカーチェイスに巻き込まれる。国家機密の発明品をめぐり互いに相手を裏切り者だというCIA側と彼との間で板ばさみとなるが、さらに予想のつかないようなトラブルが彼女を待ち受けていた。
美男美女のロマンス、ど派手なアクション、さらには世界の観光地めぐりと、コアな映画好きをげんなりさせる要素が揃っている点で、すでに旗色はよくない。しかし、それでいて伝統的ともいえるスリラー映画の筋立てをきちんと踏襲すると同時に、トムの身元やキャメロンのカーキチぶりをめぐっての伏線の張り方など小技も達者で、終始観客の興味をそらさないのは、脚本・監督の手柄だろう。古き良きスクリューボールコメディのテイストも、物語の乗りの良さを生む一因となっている。ミステリ・ファンをここまで楽しませてくれるラブコメ、アクション映画も、最近ではちょっと珍しい。
日本推理作家協会報2010年11月号]
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