この愛のために撃て/フレッド・カヴァイエ監督(2010・仏)


アカデミー賞監督のポール・ハギスラッセル・クロウの主演で撮った、冤罪で投獄された妻を夫が脱獄させるという『スリーデイズ』(2010)は、フランスの新鋭フレッド・カヴァイエのデビュー作『すべて彼女のために』(2008)のリメイクだが、その公開とほぼ同じタイミングで届けられたのが、カヴァイエ監督の第二作『この愛のために撃て』である。よほど夫婦愛への拘りでもあるのか、またも奪われた妻を必死になって奪回せんとする夫の物語だ。病院に看護師の助手として勤めるジル・ルルーシュは、ある日、押し入ってきた謎の男たちに出産間近の妻エレナ・アナヤを連れ去られてしまう。やがて犯人から連絡が入り、勤め先の病院からひとりの患者を三時間のうちに連れて来いと命ぜられる。その男ロシュディ・ゼムは逃走途中に交通事故で怪我を負った重要事件の容疑者だった。
警察の目を欺いて誘拐犯の命令に従おうとする主人公だが、やがて事件の構図が反転する。主人公と容疑者の間に芽生えていく連帯意識や、終盤の襲撃計画の大胆不敵な手口が面白い。観客を飽かさないのは、練られたシナリオが功を奏しているのだろう。母国でヒットしたというデビュー作は、肝心の脱獄計画に工夫や面白味がなく、やや退屈したが、見ごたえのある第二作に仕上がっている。夫婦愛へはともかく、インタビューでも語っていたミステリ映画への拘りを持ち続けていってほしい監督だ。
日本推理作家協会報2011年9月号]
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