アリス・クリードの失踪/J・ブレイクソン監督(2009・英)


イギリス出身の先達、クリストファー・ノーランダニー・ボイルの才能に例えられてのデビューを果たしたのが、イングランドから登場したJ・ブレイクソンだ。英国産洞窟ホラーの続編『ディセント2』の共同脚本などで知られる人だが、自らのオリジナル脚本を映画化した『アリス・クリードの失踪』は、登場人物がたった三人(犯人のマーティン・コムストンとエディ・マーサン、被害者のジェマ・アータートン)という狭い枠組の中で繰り広げられる密室サスペンス系犯罪劇である。
監禁場所の設営にはじまって、アータートンを拉致誘拐して、アジトのベッドに縛り付け、脅迫状を送信するまでを一気に見せる冒頭からのたたみかけが素晴らしい。暴力の香り、ヒリヒリするような緊張感、そしてエロチシズムまでもが、スピーディな展開の中に充満しているからだ。しかし、そこでいったんペースダウンするや、物語はややこう着状態に陥ってしまう。犯人コンビの愛憎劇や、犯人と被害者の立場が主従逆転する展開など、それなりに面白く作られてはいるのだが、どこか既視感のようなものがついてまわり、序盤の興奮とスリルも二度と帰ってはこない。ただし、タイトルの絶妙なネーミングと、その意味するところが突然腑に落ちる幕切れのワンシーンはあっぱれ。
日本推理作家協会報2011年8月号]
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