白いリボン/ミヒャエル・ハネケ監督(2009・墺仏伊独)

去年ヨーロッパ映画賞で話題をさらい、4部門で受賞は果たしたのが、ドイツの鬼才ミヒャエル・ハネケの『白いリボン』だが、独特のアクの強さでは右に出るもののないハネケのこの話題作が、わが国でもやっと劇場公開の運びになったのは、実に喜ばしい。その『白いリボン』は、第一次世界大戦の足音が近づく北ドイツ地方の小さな村の物語である。近隣の集落からやってきた教師のクリスティアン・フリーデルの目を通して、村を次々と襲う不快な事件の顛末が語られていく。針金の罠にかかって馬から転落して重傷を負った医師、納屋の床が抜けて転落死を遂げた小作人の妻、そして誘拐されて暴行を加えられた男爵の息子。これら悪魔の所業は、いったい誰が犯人なのか?
恐るべきは、ハネケ自身の語る次の言葉である。すなわち「すべての事件に、論理的な説明がなされています」。牧歌的な村の空気を次第に濁らせていく不気味な事件の数々は、迫り来る次の戦争とファシズムへの不安を暗喩しているのと同時に、ミステリのフーダニットでもあるのだ。(しかも、かなり手ごわい)『ファニーゲーム』やそのリメイク、『隠された記憶』から窺えたミステリ的な手法は、本作で大きく開花したといっていいだろう。『愛を読むひと』にも揃って出演していた助産婦役のスザンヌ・ロタールと牧師役のブルクハルト・クラウスナーの二人が、物語のキーパースンとして好演している。
[日本推理作家協会報2010年12月号]
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