ドライブ・アングリー3D/パトリック・ルシエ監督(2010・米)


人生初の3D映画体験は、忘れもしない三十八年前の夏、新宿東急で観た『悪魔のはらわた』だ。映画観の入り口で渡されたプラスチック製の眼鏡をかけ、次々鼻先につきつけられる血まみれの首切り挟みや生々しい臓物に首をすくめた記憶がある。キャンプユーモア(悪趣味な笑い?)に徹したコメディ映画という映画評論家のコメントを当時目にしたが、なるほど男女のフランケンシュタインを作って、子づくりをさせようという無茶なアイデアには笑うしかなかったが(オチがまた良かった)、過激なスプラッタ描写の連続に、固唾を呑んでスクリーンを見つめてしまった当時の自分の幼さを思い出すたびに苦笑いしてしまう。
それ以来、すっかり3D映画と縁遠くなってしまったのは(『アバター』すら見ていない)、単に3D公開される作品に興味が湧かなかっただけだが、これにはピンときた。愛する妹を殺したカルト教団の教祖ビリー・バークを追うニコラス・ケイジが、連れ去られた赤ん坊の孫娘を必死に取り戻そうとする『ドライブ・アングリー3D』である。監督・共同脚本のパトリック・ルシエはリメイクの『ブラッディ・バレンタイン3D』を撮った人で、次回作として『ハロウィン?』(もしかして、これも3Dか?)が控えている。
主人公の男は婚約者から暴力をふるわれていたウェイトレスのアンバー・ハードを道中で拾い、彼女のダッジ・チャージャーで教祖を追うが、前半はカーチェイスあり、銃撃戦ありと、サービス精神は旺盛ながら、展開は割りと平凡。よくあるB級乗りのアクションもので、よくニコラス・ケイジがこの役を受けたな、と思ってしまう。実は彼が演じる主人公の男も、監査役を名乗る謎の人物ウィリアム・フィクトナーから追われていて、その正体が薄々わかってくるあたりから、お話は俄然面白くなっていく。意外な事実をめぐる伏線も丹念に張られているし、くどいほどの3Dのサービスが、お話の悪乗り具合をさらに加速させる。最後の最後まで、大げさな演出を白けることなく堪能した。
日本推理作家協会報2011年9月号]
》》》公式サイト