ミックマック/ジャン=ピエール・ジュネ監督(2009・仏)

主人公がハワード・ホークスの『三つ数えろ』(ご存知、原作はチャンドラーの『大いなる眠り』)の台詞を丸々暗記している映画。そんなものを作るくらいだから、ジャン=ピエール・ジュネ監督は、相当のミステリ通なのではなかろうか。そういえば、前作はセバスチアン・ジャプリゾの「長い日曜日」の映画化だった。
さて、戦場で姿を消した恋人捜しのミステリを、映像の遊び心いっぱいに描いた前作「ロング・エンゲージメント」以来、五年ぶりの新作となる『ミックマック』は、幼い頃に父を戦争で失った青年ダニー・ブーンの物語だ。レンタルビデオ屋の店番をしていた彼は、発砲事件に巻き込まれて、流れ弾を頭に受けてしまう。いつ死んでも不思議じゃない不安を抱えたうえに、仕事も失うが、廃品回収を営むさまざまな特技を持つ仲間たちと出会い、前向きに生きていく決心をする。そんなある日、頭の中の弾丸を作った武器商人と、父の命を奪った地雷を作った会社に復讐することを思いつく。
フランス語で悪戯を意味するタイトルからも察せられるように、いかにもジュネ監督らしい遊び心をちりばめた風変わりな復讐の物語である。人間大砲男から軟体女まで、七人の仲間たちの特殊技能をフルに駆使して実行に移されていく破天荒な計画とその顛末が、なんとも愉快。ユーモラスな場面を差し挟みながらも、ひたすら先の読めない展開は、クライマックスでそのピークに達する。カラフルでポップな映像は一見やや甘口にうつるやもしれぬが、ハートウォーミングとミステリ映画のスリルを同居させた楽しい作品に仕上がっている。
日本推理作家協会報2010年12月号]
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