道化の死/ナイオ・マーシュ(国書刊行会)

クラシック・ミステリのリバイバルの流れに、その牽引車として大きな役割を果たした国書刊行会の〈世界探偵小説全集〉が、ついに完結した。ときに老舗の創元推理文庫やハヤカワ・ミステリをもリードする慧眼なセレクトで、思わずため息の出るようなラインナップ全四十五巻を刊行しきった功績は、はかり知れない。その最終配本が、ナイオ・マーシュの『道化の死』である。
イングランドの片田舎に伝わる豊穣の儀式マーディアン・モリス。そのさ中に、祭りの主役である道化役の老人が首を切断された死体となって発見される。衆人環視、誰も近寄れない状況の中で、犯人はどうやって犯行に及んだのか?村を震撼させる事態に、お馴染みアレン警視がスコットランドヤードから出向くことに。
数々の傑作を送り出してきたこの叢書でも、屈指の一冊。風変わりな民間伝承、怪しげな血族、そして不可能犯罪と、お膳立てからして雰囲気たっぷりだが、その謎解きに至って、丁寧にはられた伏線と仕掛けの大胆さに舌を巻く。人物の輪郭もくっきりと描かれ、小説の面白さも十分。なるほど、クリスティと並び称されることに、ようやく得心がいった。本作がもっと早い時期に紹介されていたら、わが国におけるこの英女性作家の評価も、まったく違ったものになっていただろう。
[本の雑誌2008年2月号]