ワンダーランドの悪意/ニコラス・ブレイク(論創社)

昨年、ルイス・キャロルが遺した二つのアリスの物語に大胆な脚色を施したティム・バートンの映画「アリス・イン・ワンダーランド」が話題になったが、ニコラス・ブレイクの『ワンダーランドの悪夢』もやはりキャロルの原典を下敷きにした名作として、昔から広く知られてきた作品だ。
ワンダーランドを名乗る企業が運営するキャンプ場では、奇妙な事件が続発していた。「マッド・ハッターに気をつけろ!」という謎のスピーカー放送を皮切りに、泳ぐ人の足を海中から引っぱったり、テニスボールに蜂蜜がかけられたり、ペットが毒殺されるといった騒ぎが持ち上がる。相次ぐ珍事に関係者は頭を抱えるが、警察の介入は評判に傷をつける恐れがあることから、滞在客の提案によってロンドンから私立探偵のストレンジウェイズが呼ばれる。
レジャー産業の世界という特殊な舞台設定でありながら、犯行の内容や動機が無理なく描かれている点にまず感心させられる。大団円の趣向にいたるまで、アリスの世界に徹底してこだわり尽した作品としてもポイントが高い。ガチガチの本格ものと一線を画する楽しさは、ポールとサリーという若き男女をめぐるラブコメ的な味付けにもあって、映画でいうスクリュボール・コメディを連想させたりもする。これら前時代の殻から脱皮しようとする試みこそが、当時の新本格派の真骨頂だったことを思い起こさせてくれる作品だ。
[ミステリマガジン2012年2月号]

ワンダーランドの悪意 (論創海外ミステリ)

ワンダーランドの悪意 (論創海外ミステリ)