グリンドルの悪夢/パトリック・クェンティン(原書房)

作家としての知名度も、作品の紹介数もそれなりにあるパトQことパトリック・クェンティンだが、『グリンドルの悪夢』を読むと、そんな過去の評価も氷山の一角に過ぎなかったか、という思いにとらわれる。このクラスの作品が未紹介で眠っているなら、もっとパトQを読ませろと声を大に叫びたい。そんな秀作である。
犯人が引き起こす事件が、人や動物を自動車で引き摺り回して殺すという残虐なせいもあって、どことなく不穏な空気が立ち込めている。しかしその雰囲気は作者が仕掛けた罠のひとつで、やがて読者はそのわけを明かされるのだが、その一瞬が息を呑む素晴らしさだ。オーソドックスな謎ときも、サイコロジカルスリラーの領域に踏み入る面白さも、評価していいだろう。
[本の雑誌2008年4月号]

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)

グリンドルの悪夢 (ヴィンテージ・ミステリ・シリーズ)