災厄の紳士/D・M・ディヴァイン(創元推理文庫)

てっきり本格ミステリは死んだ、と思っていたあの時代に、こんな作品をバリバリ発表していたなんて、D・M・ディヴァインの『災厄の紳士』。まさに本格ミステリの救世主だったんだな、この作家。
主人公のネヴィルはヘボな恋愛詐欺師。大した儲けにならないにもかかわらず、カモになりそうな女を見かけると、ジゴロを気取って手を出さずにはおれないダメ男だ。しかし、今回のターゲットであるアルマは特別だった。ある人物との共謀で、念入りな計画のもと、ネヴィルは偶然を装って彼女へと接近する。一方、別れたばかりの幼なじみの婚約者が忘れられないアルマは、最初はそんなネヴィルに鼻もかけなかったが、なんだかんだと迫られるうちに、ついに篭絡され、自宅に彼を招くことに。著名な作家で厳格な父親のエリックや冷静な姉サラの眼鏡にも適い、ネヴィルも自らの役目を果たしたと思ったとき、事件は起こった。アルマの家をあとにした彼は、忽然と姿を消してしまう。
詐欺師の視点から語られる前半は、やや読者の意表をついて、結婚詐欺を思わせるコンゲーム的な展開。一方、視点が切り替わる後半は、一転してディープな謎解きへとシフトしていくユニークな構成が面白い。前半のたっぷりと語られる人物描写をもとに、レッドヘリングがめまぐるしく行き交う終盤の展開が素晴らしい。古典と現代本格をつなぐ最重要作家であることを再認識させてくれる傑作だ。
[ミステリマガジン2009年12月号]

災厄の紳士 (創元推理文庫)

災厄の紳士 (創元推理文庫)