1/2の埋葬/ピーター・ジェイムズ(ランダムハウス講談社文庫)

『1/2の埋葬』は、イギリスから登場した新シリーズブライトン市警ロイ・グレイス警視シリーズの第一作である。作者のピーター・ジェイムズはブライトン出身だが、以前はアメリカで映画の脚本やプロデュースという仕事に精を出していたようで、本作の持ち味のひとつである軽快なテンポは、映画業界での経験が活かされているのだろう。
とにかく冒頭の掴みが素晴らしい。結婚を目前に控えた友人を、独身最後の他愛ない悪ふざけで棺桶に入れて埋葬した男たち。しかし、その場所を知る四人の男たちは直後に交通事故で全員が死亡してしまう。さらに、その悪戯をただ一人知るビジネスパートナーも、なぜか口をつぐむ。地中に取り残された男の救出に、グレイス警視の捜査が開始されるが。
地中の男の運命やいかに、というシンプルだが力強いサスペンスが読者をひっぱる。しかし、時間の経過とともに、その素朴なシチュエーションがさまざまに形を変えていく展開が実は見事だ。主人公の警視は、行方不明となった妻の幻影を心の傷に負っていて、その妄執に未だ悩まされる姿が印象的。人を喰った捜査方法ともども、このシリーズのトレードマークとなっていくに違いない。
[本の雑誌2008年3月号]

1/2の埋葬 下 (ランダムハウス講談社文庫)

1/2の埋葬 下 (ランダムハウス講談社文庫)

1/2の埋葬 上 (RHブックス・プラス)

1/2の埋葬 上 (RHブックス・プラス)