ロジャー・マーガトロイドのしわざ/ギルバート・アデア(ハヤカワ・ミステリ)

1800番の節目だったP・D・ジェイムズの「灯台」から、ポケミスの帯がやや縦長になって、新しいビジュアルが表紙を飾るようになった。毎回その写真や絵柄には適宜な計らいがあって、これから読もうとしている本への興味を視覚的にかきたててくれる悪くないアイデアだと思う。ただ、トレードマークの抽象画を半分隠してしまうのが、珠に傷ではあるのだけれど。
その帯に雪に閉ざされた山荘を掲げたギルバート・アデアの『ロジャー・マーガトロイドのしわざ』の舞台は、三十年代のイギリスはダートムアの外れ。折からの吹雪で外部との連絡をすっかり絶たれた屋敷で殺人事件が発生する。クリスマスの翌日、内側から鍵のかかった屋根裏部屋で発見されたのは、悪名高きゴシップ記者の死体だった。招かれてもいないフォークス家のパーティに紛れ込み、その毒舌で滞在客たちをうんざりさせた揚げ句の出来事だった。
警察との連絡もとれない状況の中、執事の発案で、引退生活を送っているトラブショウという男を招くことに。彼は、スコットランドヤードを定年退職した元警部で、フォークス一家と滞在客を相手に訊問を開始する。しかし、そのさ中、今度は屋敷の周りを散歩に出たその家の主フォークス大佐が、犯人と思われる人物に銃撃されてしまう。
黄金時代の作品に捧げられたオマージュと謳われているが、単にその域に留まらない素晴らしい出来映えだと思う。作者は、クリスティを全冊読破して本作に取り組んだというが、そもそもミステリのセンスがある人に違いない。さまざまな方向から罠を仕掛け、そのことごとくが実を結んでいる。間違いなく、本格ミステリの分野における本年の収穫のひとつだろう。アデアはミステリのプロパー作家ではないが、再登場を求める熱いアンコールを送りたい。
[ミステリマガジン2008年4月号]

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)

ロジャー・マーガトロイドのしわざ (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1808)