紫雲の怪/ロバート・ファン・ヒューリック(ハヤカワミステリ)

ロバート・ファン・ヒューリックが唐代の中国を舞台に描く歴史ミステリ、ディー判事シリーズも、七年前からポケミスが新訳でコツコツと刊行してきて、残すところあと僅か。未紹介長編としては最後のひとつ、『紫雲の怪』の登場である。西の辺境蘭坊に赴任したディー判事は、妻への贈り物にしようと古道具屋で買い求めた小箱の中から、助けを求める不穏なメッセージを見つける。一方、町の外れにある廃寺では、地元のヤクザ者が首なし死体で見つかる。判事とその副官マーロンの調査で、やがて両件は互いに関係があることが判ってくるが。
判事の三人の妻たちの出番があったり、脇役マーロンが大活躍するなど、シリーズの読者には読みどころの多い作品だ。ミステリとしても、一見何の繋がりもない複数の事件が、やがてシンクロしてくる面白さや、ディー判事がいともあっさりと多重解決を披露する場面などもあって、大いに楽しませてくれる。シリーズを代表する一作に数えて間違いなかろう。
[本の雑誌2008年5月号]

紫雲の怪 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1809)

紫雲の怪 (ハヤカワ・ポケット・ミステリ1809)