ホット・キッド/エルモア・レナード(小学館文庫)

エルモア・レナードは生年が一九二五年だから、『ホット・キッド』は御歳八十才で上梓した作品ということになる。いまだ新作と届けてくれるというだけでも素晴らしいのに、それがかつての作品に負けず劣らずの傑作だというのだから、本当に驚かされる。主人公のカールは、少年時代に牛泥棒を遠距離から一発で仕留めたことがある連邦執行官補だ。射撃の腕が抜群な彼の自信過剰を父親や上司は心配もするが、根っからの正義漢のカールは飄々と悪党どもを懲らしめる仕事をこなしていた。
 一方、石油王の息子ジャックは、両親も匙を投げる捻くれたワルガキだった。念願かなって(?)悪の道を歩み始めたジャックは、寸でのところで町の顔役に消されるところを、顔なじみのカールに救われる。しかし、その結果刑務所に送られることになったことを逆恨みしたジャックは、首尾よく脱獄を果たし、カールの命を狙おうとするが。
 かつてアメリカのニューシネマが、好んでとりあげたアウトローたちが活躍した禁酒法の時代が背景になっている。ディリンジャーやボニーとクライドらの名前が登場し、物語に絡んでくる実在の悪党もいる。レナードの世界では、活き活きと描かれるという点で善人も悪人も実に平等だが、不思議な縁で結ばれた保安官補と犯罪者を始めとして、多士済々な登場人物たちが織り成していく先の読めないオフビートな物語が今回も抜群に面白い。先に紹介された「キューバ・リブレ」の読者がちょっとした感慨を抱くであろう味な前作との接点もある。
[ミステリマガジン2008年4月号]

ホット・キッド (小学館文庫)

ホット・キッド (小学館文庫)