聖者は口を閉ざす/リチャード・プライス(文藝春秋)

「フリーダムランド」以来、久々の紹介となるリチャード・プライスの『聖者は口を閉ざす』。ミステリというより、物語の中心に謎を据えた普通小説というべきかもしれないが、その謎はなかなか魅力的だ。主人公のレイは、ある日自宅で何者かに殴打され重傷を負う。しかし、彼は事件についてひたすら口を閉ざし、幼馴染みの女刑事にも一切を語らないのである。
まるで一瞬一瞬を積み重ねるように詳らかにされていく主人公の過去と現在。どん底から頂点まで昇りつめ、ふたたび出発点の貧民地区に舞い戻った主人公が、そこで何を思い、どう行動したのか。主人公を独善と批評する辛口の視点があることもポイント高いが、過去を眺め渡せば人生のたおやかな流れ、未来にはささやかな希望が見える幕切れが見事だ。
[本の雑誌2007年7月号]

聖者は口を閉ざす

聖者は口を閉ざす