墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活/ニール・ゲイマン(角川書店)

本誌読者の中にも、ニール・ゲイマンをSFやファンタジイの人と思って敬遠している向きがあるやもしれない。しかし、もしそうなら大きな損をしていると思う。良質な英ミステリにも通じるユーモアと達者なストーリーテリングから繰り出される長編小説の数々は、いずれもエンタテインメントとしてハズレがないし、短篇もまた抜群のクオリティを誇っている。そんな実力派の最新作は、児童文学賞の最高峰と言われるカーネギー賞ニューベリー賞のダブルクラウンとなった『墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活』である。
一家惨殺事件のたったひとりの生き残りは、よちよち歩きの赤ん坊だった。運良く難を逃れた彼は、たまたま墓地に迷い込み、死者でも生者でもない謎の人物サイラスを後見役として、幽霊たちとともに暮らすこととなった。心優しき幽霊たちに囲まれて、外の世界を知らないまま成長を遂げていく少年は、やがて魔女の霊とのふれあいや、死者の世界での冒険を経て、次第に不思議な力を身に付けていく。しかしそんな彼には、家族の仇で、今なお彼を付け狙う恐るべき殺人犯らとの対決の時が迫っていた。
映画になった『コララインとボタンの魔女』のせいだろうか、ストップモーションアニメの世界を彷彿とさせながらファンタスティックに展開されていくが、時に前面に出てくるダークファンタジイ色が読者にゲイマンという作家の持ち味を強烈に意識させる。いくつもの小さなエピソードを束ねていく小気味良い小説作法や、終盤に待ち受ける意表をつく展開も、ミステリファンの心を躍らせること必至だろう。
[ミステリマガジン2010年12月号]

墓場の少年  ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活

墓場の少年 ノーボディ・オーエンズの奇妙な生活