三十三本の歯/コリン・コッタリル(ヴィレッジブックス)

CWA賞の最優秀長編部門候補にもなった前作の翻訳紹介から早く四年が経とうとしているが、コリン・コッタリルの『三十三本の歯』はインドシナ半島の東寄りに位置する国ラオスを舞台に、齢七十二を数える老検死官シリ・バイブーンが大活躍するシリーズの待望久しい第二巻である。
母国が王朝から社会主義国へと鞍替えしてまだ間もない一九七七年。首都ヴィエンチャンにあるモルグを兼ねた検死事務所に、猛獣に首を噛まれたと思しき老女の死体が運びこまれてきた。国内にただひとりの検死官シリは、部下の看護婦ドゥーイと助手のグンの手伝いで検分の仕事を進めるが、死体の歯型は熊の仕業を示唆していた。その日の朝方、ほぼ時を同じくしてシリ本人も自宅の庭に大きな熊を目撃したばかりだった。やがて別件で出かけた出張先で、三十三本の歯をめぐる秘密を知るが。
先の『老検死官シリ先生がいく』と同様に、いくつもの事件が並行するが、猥雑な展開はモジュラー型というよりはごった煮に近い。ホテルの裏庭から熊が逃走する幕あけに続き、官公署を舞台にした怪死事件、さらには世界遺産としておなじみの古都ルアン・パバーンで黒こげの死体が見つかり、首都では女性ばかりを咬み殺す連続殺人がもちあがる。大忙しのシリ先生だが、オカルト色が強く前面に出ているのも本作の特徴で、シリーズの魅力の二本柱である推理と超自然の関係が乖離しているように思えた弱点は、ほぼ払拭されている。不本意に主人公が巻き込まれる顛末の思いがけない真相でしめくくられるラストも印象的だ。
[ミステリマガジン2012年7月号]

三十三本の歯 (老検死官シリ先生)

三十三本の歯 (老検死官シリ先生)