バーン・アフター・リーディング/ジョエル&イーサン・コーエン監督(2008・米)

アカデミー賞に輝いたヘビーな「ノーカントリー」の次作ということもあって、犯罪コメディをお手軽に撮ったようにも見える『バーン・アフター・リーディング』だが、そこはジョエルとイーサンのコーエン兄弟のこと、一筋縄ではいかない。衛星からの画像を使ったと思しきイントロとアウトロの部分からも判るように、彼ら兄弟が今回槍玉にあげているのは、独断と横暴が先行するCIAのスパイ活動だ。ちょっとありえないくらいにお馬鹿なブラッド・ピットや『フィクサー』とはひと味違う演技を見せるジョージ・クルーニー、さらには元々ヘンテコなジョン・マルコヴィッチやファニーなフランシス・マクドーマンドらが繰り広げるドタバタで煙に巻かれるけれども、中盤のある一点を境に(このクローゼットの場面は、心底ぞっとさせられる)、物語はシニカルな方向へと急展開していく。硬直化した諜報機関上層部の横暴が市民の平和な生活を脅かすさまを描いて、観客に差し出される戦慄と紙一重のお笑いは、コーエン兄弟らしい毒をたっぷりと含んでいる。
[日本推理作家協会報2009年7月号]
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