3時10分、決断のとき/ジェームズ・マンゴールド監督(2007・米)

重度の西部劇音痴なのに、『3時10分、決断のとき』の公開に小躍りしたのは、原作がエルモア・レナードの短篇だからだ。(〈ミステリマガジン〉1988年7月号に訳載)舞台は開拓時代のアリゾナ州。妻とふたりの息子を養い、借金を抱えて汲々とした生活を送っている牧場主のクリスチャン・ベイルは、ラッセル・クロウ率いる一味の駅馬車襲撃を目撃したことから、ピンカートン社の賞金稼ぎピーター・フォンダらとともに、捕まえたクロウを護送する役割を二○○ドルの報酬で引き受ける。西部劇ファンならご存知だと思うが、本作はグレン・フォードが主演した西部劇映画の古典「決断の3時10分」(1957年)のリメイクで、少年時代に観た原典に惚れ込んだというジェームズ・マンゴールド監督(ミステリ映画ファンには「アイデンティティー」でお馴染み)が、念願かなってメガホンをとっている。悪党を裁判所のあるユマ行きの列車に乗せるため、離れた町の鉄道駅まで送り届けるというシンプルなストーリーラインだが、首領の奪還を企むベン・フォスター率いるクロウの手下たちに追われたり、インディアンからの襲撃を受けたりと、展開は実にサスペンスフル。信頼を失いかけている家族との関係に揺れ、悪党のクロウとも葛藤する主人公像の今日的なリアリティも評価に値する。ラストで幕の降ろし方がやや乱暴だが、自らの誇りを守り抜き、主人公が長男ローガン・ラーマンとの絆を取り戻す幕切れは悪くないと思う。
[日本推理作家協会報2009年9月号]
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