瞳の奥の秘密/ファン・ホセ・カンパネラ監督(西亜合作・2009)

2009年度アカデミー賞最優秀外国語映画賞受賞という鳴り物入りで登場したスペインとアルゼンチンの合作映画『瞳の奥の記憶』の監督は、ブエノスアイレス生まれのファン・ホセ・カンパネラである。カンパネラは、アメリカでテレビの連ドラを多数手がけていることでも有名だが、この作品は母国で映画化すべきだと考え、それを実行に移したという。裁判所を定年で退職したリカルド・ダリンは、久々に元上司で検事補のソレダ・ビジャミルを訪ね、二十五年前に担当した未解決の事件を題材に小説を書こうと思っていることを打ち明ける。ソレダとのやりとりから、少しづつ甦っていく事件をめぐる過去の出来事の数々。新婚の若妻が殺された事件の捜査は当初難航したが、被害者の夫である銀行員のパブロ・ラゴの深い思いに突き動かされるように、主人公はやっとのことで容疑者ハビエル・ゴディーノを逮捕する。しかし思わぬことから、犯人は釈放されてしまう。
アル中気味の同僚ギレルモ・フランチェラとの友情や、上司のソレダ・ビジャミルとの微妙な男女の仲など、主人公をとりまく人間模様の数々が、現在と過去を鮮やかに結びつけていく。前半の重点は若妻殺しの犯人探しで、ハイライトのサッカー場のシーンは、実にサスペンスフル。一方、後半は殺人事件に弄ばれた関係者の人生が描かれていくが、意外な事実のあとに待ち受けるラストシーンに、本作の愛というメインテーマがしっかりとこめられている。四半世紀という残酷な時間の流れをしっかりと表現するメイクの技術(?)にも、感心させられた。 
日本推理作家協会報2010年10月号]
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