イングロリアス・バスターズ/クエンティン・タランティーノ監督(2009・米)

七十年代イタリア産マカロニ戦争映画(「地獄のバスターズ」)のリメイクとも伝えられたクエンティン・タランティーノの新作『イングロリアス・バスターズ』だが、当然のことながら話はそんな単純じゃない。原典映画との関係は、せいぜいリスペクトどまり。第二次世界大戦のさ中、ナチス占領下のパリを舞台に、ヒトラーの列席を仰ぎ、国策プロパガンダ映画のプレミア上映を成功させようとするナチスの宣伝相ヨーゼフ・ゲッペルズの計画をめぐって、ナチに家族を殺された映画館主が企む復讐劇とナチス上層部を一掃しようとする連合国の秘密作戦が入り乱れてのバトルロイヤルが繰り広げられる。
もちろん、タイトルどおりに、ユダヤアメリカ人の中尉ブラッド・ピット率いるナチス皆殺しを旗印とした連合軍極秘部隊の活躍が物語の中心なのだが、ユダヤ狩りで鳴らすナチの大佐クリストフ・ヴァルツユダヤ人の娘メラニー・ロランの因縁の出会いに始まり、ドイツの英雄と謳われる兵士と美しき映画館主のエピソードや、田舎町の居酒屋が一瞬にして修羅場に変る英独呉越同舟のハプニングと、画面は実にめまぐるしく展開していく。しかし、それにしても映画のランニングタイムは軽く150分を越えるのに、体感時間はせいぜい90分程度という乗りの良さは一体どこから来るのか不思議。ありえない結末にも、思わずニヤリ。二重スパイの女優役を演じたダイアン・クルーガーがインタビューに答えて口にしたという「この映画は楽しくて、いわばおとぎ話なの」というコメントが、本作をあっさりと言い当てていると思う。
日本推理作家協会報2009年12月号]
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●本国予告編1&2(Release Date: Aug 21, 2009)